想いが届く確立
「どうした?ラビル?お前が物思いにふけるなんて珍しいな」
自宅のバルコニーで夜景を見ていたら、背後からセルリアンに声を掛けられた。
お風呂から出てきたセルリアンは白のバスローブで赤くなった頬を手で扇いでいた。
「風呂に入らないのか?」
「あ…ああ、入ろうかな…」
向きを変えて部屋に入ろうとしたオレの腕をギュっと捕まれた。
「本当はお前と一緒に入りたくて、お前が来るの待ってたんだぞ」
熱を帯びた視線はいつもよりずっと色濃くなっていて、思わずときめいてしまった。
「ああ、ラビルお前の全てを愛してるぞ。きっと私の愛は深すぎてお前を壊してしまうかもしれない。それでも許してくれるか?」
相変わらず、セルリアンの言葉の意味はよく分からないが、1つ言える事は…。
「オレもセルリアンが好きだよ」
1000年前からずっと好きだった。
「好きな相手に好きになってもらえる確立ってどれぐらいなんだろうな」
人と人の廻り合いだって奇跡のようなものなのに、その上自分の想いが相手に受け入れられるなんて。
『運命』なんて妖狐だった頃は考えた事も無かったけど、今は『運命』はあると思える。
「急にどうした?そんな事を考えていたのか?」
「あ、いや、まぁ。今日のあの二人を見てたら、何かうまくいって欲しいなって思ってさ」
火男の焦也と雪女のめぐみ。
絶対に結ばれない同士の二人が恋に落ちる事などあるのだろうか?
そもそも、焦也の方はめぐみをどう想っているのか分からないから、めぐみの想いを叶えてあげたくても、なかなかこればかりは…。
「まぁ、今日見た限りで言えばあの二人なかなかお似合いだったけど。想いは伝えてみない事には始まらないからな。私はキッカケを与えたにすぎない」
あの後、めぐみは何とか落着きを取り戻し、『おい、焦也、めぐみを送って行け』と半ば強引にセルリアンに言われた焦也は言う通りにめぐみを家まで送って行ったらしい。
『今日は本当に本当にありがとうございました。始めはとても驚きましたがおかげで彼と連絡先を交換する事もできました。嬉しすぎて何て言ったらいいのか分かりません、本当にありがとうございました』
とのLINEがセルリアンに届いたらしい。
「人の恋路にごちゃごちゃと言うつもりは無いが、誰かが誰かを想う気持ちは応援したい、そして…」
そう言うなり、オレの首に手を回し唇を押し当ててきた。
プクっとした柔らかい唇の感触。
「この世で一番大切なのは私とお前の関係だ。お前と出会えた事、お前を愛しいと想えた事、お前から愛された事、それだけが全てだ」
洗いたてのセルリアンの髪の香りが鼻をくすぐる。
セルリアンの細い体をギュっと抱き締め返した。