火男の魅力
いつもオタオタしていて、話す言葉も聞き取れないほど、小動物のように全く頼りない火男の焦也が、そんな今までの姿からは想像できない素早い動きで、氷漬けになった雪女のめぐみの救出する様には、かなり驚かされた。
焦也の手から放出されたオレンジ色の明かりは徐々にめぐみを覆っていた氷を溶かしていった。
「は、は、ぷはー」
瞬間にたくさんの空気を吸い込んでしまったからだろう、一時呼吸困難のように陥り、ヘタヘタと座り込んでしまった。
「大丈夫ですか?」
焦也はそんなめぐみの背中に手を触れ、優しく叩いた。
「……は、はい、あ、りがとう、ございます」
息も途切れ途切れに答え、びしょ濡れの髪の間から見える藍色の瞳が不安そうに瞬きしていた。
が、すぐ目の前に火男の顔がある事が分かると一気に顔を真っ赤にして、バタバタと手を揺らした。
「あ、あ、わ、ほ、ほ、んとに」
その慌て用を見ているとせっかく今助けてもらったのに、このままじゃまた緊張の沸点に達し、さっきと同じようにめぐみが氷漬けになってはいけないと、セルリアンが駆け寄り、クールキャラのくせにピンクのフリフリのエプロンを着ている黒狐が手に持っていたバスタオルをパッと取り上げ、めぐみの肩に掛けた。
「落ち着け、めぐみ、また凍ったらどうするんだ?」
セルリアンの言葉で、我に返ったようで、頬を赤らめたまま、小さく首を縦に動かした。
「とりあえず、それでは風邪を引く、私の部屋で着替えろ」
「あ……、そ、…れ…(な)…ら」
いつもの火男に戻った彼は、オズオズと言って、広げた両手をめぐみの体に近付け、先ほどよりは発光の抑えたオレンジ色の光を出した。
途端に、フワーッと暖かい風がめぐみを包むと全身びしょびしょに濡れていた彼女はみるみるうちに乾いてきた。
「わぁー、ありがとう」
「あまり……あ…(たたか)……めすぎ、ない……(ように)……気をつ……(け)た」
ほほー、雪女のめぐみの体の事を心配するなんてなかなかの紳士振りじゃないか。
しかも、いつもは頼りないくせにいざとなるとあんな機敏に動くとか!
めぐみが好きになった理由が何となく分かってきたぞ。
「なかなかやるなー、焦也、男前だぞ」
セルリアンがポンと火男の背中を叩くと、火男はビクッと肩を竦めた。