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めぐみの想い

「と…ど…、ころ、しょ……うや」


じっと耳を澄ませていないと全く聞こえないいつもの口調でたどたどしく自分の名前を言った火男は、セルリアンとめぐみ二人の視線を受け、どうしていいか分からない顔になり、少しでも自分の存在感を消そうと体を腰を屈ませた。

結構身長があるのに、とても小さく見えるのは、やはりこの気弱な感じがそう見せているのだろう。

一刻も早くこの場を去りたい。

火男の顔にそう書かれている気がした。


一方めぐみの方も、話し掛ける事さえもできなかった想い人がこんなにも近くにいるものだから、今にも泡を吹きそうな顔をして目を白黒させていた。

そんな二人の様子を楽しそうに見ていたセルリアンは次の瞬間、絶対に誰も言わないであろう、言えないであろう言葉をさらっと言った。


「なかなかいい名前じゃないか?ところで、焦也、お前今想い人はいるのか?」


「セルリアン!」


セルリアンはまるで、「最近の調子はどうだ?」と聞くような感じで全くデリカシーの無い事を聞く物だから、思わずセルリアンの腕を掴んでしまった。


「何するんだ、ラビル?」


「セルリアン、ちょっと」


セルリアンの言葉により卒倒寸前になっているめぐみと、何の事か理解できずにポカンとした顔をしている火男の前からセルリアンを連れ出した。


「おい、ラビル、何する?」


「それはこっちのセリフだよ、セルリアン何考えてるんだ?めぐみはこんな事望んでいないはずだぞ」


「めぐみの依頼は火男に想いを伝えたいと言うものだったのだから、私のしている行動に問題があるとは思わないが…」


「大アリだよ!」


オレも鈍感な方だと思うし、人の色恋にはそんな興味も無いけど、多少のデリカシーは持っているつもりだ。


「これでめぐみが火男に想いを打ち明ければ今回の依頼は無事完了。そうすれば、ラビル、デートに行けるんだぞ。何の問題も無いでないか」


めぐみの依頼よりも自分のデートを優先するような自己中心的なセルリアンの発言がいかにもセルリアンらしかった。


「ちょっとぉー、セルリアン、部屋の冷房かけすぎじゃないぃ?」


胸を強調した黒のキャミソールワンピースから見えている肩を両手でさすりながら、オカマの金狐がセルリアンの隣に来た。


確かに。部屋の中がさっきより涼しく…いや、涼しさを通り越して寒くなっている気がする。

これは…もしや。

イヤな予感を感じ、慌ててめぐみを見ると。

案の定。

緊張の到達点に達したのであろう。

蒸気のような物に包まれて硬直しているめぐみがそこにいた。

そのめぐみから冷気が溢れだしている。


「あ」


「あ」


大変だ。

セルリアンと目を合わせ、めぐみに駆け寄る前に、火男が彼女の体に触れた。


「大丈夫。僕に任せて」


火男ははっきりと言葉を発し、めぐみに触れた手から温かいオレンジ色の光が流れ出し、少しづつめぐみの冷気を溶かしていった。


オレンジ色の光に包まれているめぐみの姿は神秘的で美しく、まるで絵本に出てくるワンシーンのようだった。


その様子を見ながら。


火男って普通に話す事できるんだ。


と、思っていた。



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