火男
火男…。正式名称は明らかにされていない。
どこに生息しているのかどんな見掛けなのか認識されていない。
ただそれでも説明しろと言うのなら雪女と全く逆の種族だと言うことだ。
「この私でさえ話にしか聞いたことのない火男…。本当に存在していたのか?」
「私たち妖は人間たちと共に常に暮らしております。あなた達もそうでしょう?街には人間が溢れ返っていますが、それと同じぐらい私たち妖も存在しているのです」
昔は、山などでひっそりと暮らしていた妖も今では人間生活の中に溶け込んで生活していたり、やはり姿を隠しながらだが普通に街で暮らしているらしい。
「確かに、私たち妖狐のような非現実的だと思われている存在がこうやって普通に生活しているのだから、火男が存在していても何もおかしくないな、だが」
おかしくはないが、雪女が恋する相手とはいかがなものだろう?
と言いたそうな顔で、めぐみを見つめた。
「自分でももう訳が分からないんです。だいたい、誰かを好きになるなんてこと自体初めてですし、それなのに、まさか、相手があの火男だなんて…」
めぐみの真白な頬が途端に真赤になり、慌てふためき始める。
はぁーと深くタメ息を吐き、小狐が運んできた新しい和菓子を口いっぱい放り込む。
そして、オレに向かって怒りに似た視線を向けた。
私は早くラビルとデートに行きたいのに…。
セルリアンのそんな心の声が聞こえた気がした。
だが、それでも結局。
「分かった分かった、つまり、その火男とお前をくっつければいいんだろう?」
こうして依頼を受けてしまうセルリアンがとても好きだった。
「?えええええーーーーー、くっつける?そんなそんな、大それたこと…。た、た、ただ、想いを、そう彼に想いを伝えたい、それだけです」
ますます赤くなった頬に両手を置いて、まるで早口言葉でも言うようにパクパクと口を動かした。
「本当にそれだけでいいのか?想いを伝えたら次は愛されたいと思うのが普通の気持ちだろう、好きな男に愛されたい、それはごく当たり前の感情だと思うが…」
めぐみの前に屈み込み、めぐみの和菓子まで口に頬張りながら、もぐもぐと言葉を続けた。
「私なら何としてでも、好きな男の心を自分の物にするが…。その男の心が手に入るまで、その男を縛り付け部屋に閉じ込め私しか見えないようにしてやる」
おいおい、それは監禁と言うのでは?と言うかそれってオレにやってることじゃないか。
オレはセルリアンに何度も想いを打ち明けているのにも関わらず拘束されているのか?
オレの心の声が聞こえたのか、ニヤッと不敵に笑ったセルリアンと目が合った。