雪女の恋
「人間じゃないかも?だと?何故そう思うんだ?」
小狐が新しく入れ直した熱いお茶をすすりながら、セルリアンは依頼人の押上めぐみに尋ねた。
「え?それは…」
言葉を濁らし、目の前に置かれている湯のみを手に取ったものの、
「あつ…」
すぐに下に置いた。
入れ直したセルリアンのお茶ならまだしも、彼女のお茶は入れてからもう随分経っている。
そして…。僅かな違和感。
お社に入った時の涼しい空気は今や少し寒く感じる。
元から涼しいお社だが、それでも今の季節は夏だ。
この涼しさは異常だった。
「…。お前も人間じゃないから、その好きな相手が人間じゃないことが分かるのだろう?」
セルリアンの言葉に、めぐみの透き通るような白い肌がみるみる赤くなっていった。
「その真っ白な肌、整った顔立ち、この部屋の異常な寒さ。お前雪女だろう?」
雪女?
なるほど、それならこの社の寒さも納得。
って、納得してる場合じゃない。
「雪女って本当に実在するのか?」
オレはマジマジと彼女を見詰めた。
雪女なんて空想の存在かと思ってた。
「まさか伝説の盗賊の妖狐にそのような事を言われるなんて思いませんでした」
めぐみに言われて、考えてみれば確かにそうだ。と思い直した。
オレ自信妖怪の類いだし、これまでだって盗っ人小人や幽霊の類に遭遇してきたのに、今さら何故雪女の存在は否定的なのだろう?
「それは1000年前、雪女は滅亡したと…。『獸猫』が全ての雪女を皆殺しにしたと噂を聞いたからだろう」
あ、そうだ。
1000年前セルリアンと一緒にあの洞窟で暮らしていた時、『獸猫』が雪女を根絶やしにしたと言う悪行を聞いたのだ。
だから、雪女の存在に否定的だったのだろう。
「そう、私たち雪女は1000年前『獸猫』の襲撃に遭いました。その結果滅亡したと思われていましたが、その中でもごく僅かな雪女は自分達の存在を隠し生き延びる事ができました。そして、私たち雪女は時には人間たちの中に身を隠し、今では純血の雪女は私とあと数名しかおりません。純血の雪女として、この血を絶やす訳にはいかないと思ってはいるのですが…」
ふぅーと湯のみに息を吐くと、ピキピキと音を立て中のお茶が凍り始めた。
『あ、やり過ぎちゃいました』
小さくそう言うと白い指でつんつんとお茶をつついた。
「その口振りから察するにお前の好きな相手は同種族では無いと言うことだな?」
セルリアンの問いに、クスっと微笑むと彼女は静かに告げた。
「同種族どころか全く逆の種族でございます」
逆の種族…。
「まさかとは思うが…。相手は火男なのか?」