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夏の思い出

「もうすぐ夏休みが終わってしまうではないか!」

元の世界に戻ってから、数日経った現在、朝食後、可愛らしい小さなグラスでザクロソーダを飲んでいたセルリアンが部屋のカレンダーを見て、大声を上げるものだから、起き抜けに牛乳を一気飲みしてたオレはその声に驚き思わず吹いてしまいそうになった。


「ラビル、聞いているのか?このまま夏の思い出を作らず夏休みを終えてしまってもお前は構わないのか?」

夏休みが終わる?

「ああ、そう言えばそれが始まる前、『一ヶ月ちょいの長い休みだが、九月からはまたいつもの学校生活始まるから』って言ってたよな?」

ここの世界に来て色々な生活を学んできた中での初めての夏休み。

目が覚めたら朝で、お腹が空いたら食べて、眠くなったら眠っていたこの1000年前と同じような生活がオレには過ごしやすかったのになー。


「何をブツブツ言っているのだ!私は夏休みの思い出が無いことを怒っているのだ」

「夏休みの思い出?よく分からないが、一緒に花火と言うものを見たり、白ウサギの依頼を片付けたり、それと…」


オレはカウンターに置いてある、過去の世界でセルリアンが作ってくれた花の指輪をセルリアンの前に突き出した。


「ほら、思い出ならたくさんあるだろう?」

う…と小さく言葉を発してから、じーっと指輪を見詰めていたセルリアンだったが、

「指輪が枯れ始めてるーーーーー」

またイライラしたように大きな声を上げた。

「仕方ないだろう、永遠にそのままでとっておける訳ないんだから」

「くそー、蒼紫にこの指輪の時間を止めて貰えば良かったなー、そうすれば永遠にあの時のままだったのにな」

1000年前の世界で出会った、人や物の時間を自由に操る事ができる少年蒼紫。

蒼紫の『助けて』と言うメッセージを受け取ってオレたちはしばらくの間、過去にいた。

「蒼紫、大丈夫かな?」

「蒼紫は強い人間だ、きっと大丈夫だ、それにもし何かあったらいつでも私を呼べと言ってある」

セルリアンにとって弟のような大切な存在の蒼紫。

一人残してここに来てしまったこと、少なからず後悔しているのかもしれない。

瞳が寂しそうだった。


「セルリアン、指輪なんて無くてもあの時の思い出は色褪せないから」

セルリアンの柔らかい髪に触れると、彼女は瞳を輝かせた。

「当たり前だ。お前と過ごしたどの時間

も色褪せることなんてない。だが、やはり、二人だけの夏の思い出が欲しいな、これから出掛けるぞ」


これから?

この炎天下の中…?

考えただけで、汗が出てきた。


しかし…、セルリアンが決めたことは絶対で変わることはない。


嬉しそうに洋服を選び始めるセルリアンを見て、深く息を吐いた。



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