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蒼紫との別れ


「本当にこの村に残るんだな?」

すっかり暗闇に包まれた村を、大きな満月が辺りを照らす中で、セルリアンが蒼紫に確認の言葉を告げた。

「私はもうこの村を出なければならない、だからもう一度聞く。本当にこの村に残るんだな?」


1000年前のこの時、セルリアンはオレを探すために黒狐と旅に出ていた。

その旅に蒼紫は一緒にいない。

だから、この過去の世界で蒼紫を連れて旅に出ることはありないことなのだが、セルリアンは聞かずにいられなかったのだろう。

これから、この場所で一人で生きていかなければならない蒼紫の心情を考えるとセルリアンはいたたまれない気持ちでいっぱいなのだろう。


だが、蒼紫の方は自分の気持ちにケリをつけたようで、先に進むことを決めた瞳は真っ直ぐ前を見ていた。


「確かに…、この村に一人で残ると言う決断は僕にとってとても残酷だって分かってる。でも、この村はみんなと過ごした大切な村だから。僕はこの村に残る、残りたいんだ」

もう大丈夫だよ。だから…。

蒼紫はぎゅっと拳を握り、セルリアンを見上げた。

そして、赤らめた頬で小さな深呼吸をしてから、言った。

「僕が今よりもっともっと強くなったら、僕と結婚してくれる?」

突然のプロボーズ。

しばしの沈黙。

セルリアンは蒼紫の肩をポンポンと叩いた。

「蒼紫、お前の事は大好きだ、だけど、その約束はできない。私には愛する者 がいるのだ。私はその者と結婚すると決めている」


セルリアン…。

今何もかも失い一人で生きていくと決めたこんな小さな子供にこんなにもハッキリと言うか?

蒼紫はショックで死んでしまうのではないか?


などと色々思っていたが、当の本人はさほどショックを受けていないようで。


「ふふ。セルリアンらしい答えだね。ありがとう。でも、僕は諦めないよ」

「それでこそ男の子だ、頑張れ」

セルリアンに頭を撫でられた蒼紫の笑顔には一点の曇りも無かった。



『ちょっと休憩しよう!』

蒼紫と別れたオレたちは、村を離れ、緑の草が生い茂る草原の上でゴロンと寝そべった。


「結局何でオレの姿が見えなかったんだろう?」

オレの問いにセルリアンはさっと答えた。

「それはきっとこの世界にお前はいなかったからだろう?」


そうか、オレの魂は1000年の時間を経て未来に行ったから。

だか…腑に落ちないとこもある。

あの世界で、オレは蒼紫の母親と目が合った。

雪菜にもそんな節があった。

既に亡くなっていた人間たちにオレの姿が見えるとするならば、オレはあの時既に死んでいるのではないのか?

未来で過ごした生活は夢なのでは無いのか?


「はい、ラビル」

オレの思考を止めたのはセルリアンの明るい声だった。


オレの手に触れて白い花の指輪を薬指に嵌めた。


「愛してるぞ、ラビル。この想いは未来永劫変わらない。お前の髪の毛一本までも愛してる」


ああ、オレがセルリアンを残して死ぬなんてことできない。

セルリアンが生きている限りオレは生きる。


オレもだ、オレも好きだ。


そう言おうとした瞬間。


暖かい金色の光がオレたち二人を包み込む。


意識が遠退く…、さすがに三回目のタイムトラベルには体に慣れが生じてきたようだ。


オレはセルリアンの小さな手を握りしめた。






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