家族
セルリアンに抱き締められたままの蒼紫は当に尽きたと思われていた涙をこれでもかと言うぐらい流し続けていた。
どのぐらいの時間が過ぎたのだろうか?
やがて震える声で蒼紫が話始めた。
「母さんたちを殺されてから、僕は母さんたちと過ごした最後の一日に時間を止めた。毎日毎日繰り返される時間の中、僕はずっと自分に問い掛けていた。あの時僕は母さんとの約束のために力を使わなかったのか?本当にそうなのか?本当はあの時怖くて何もできなかったのを言い訳にしているんじゃないのか?そうだとしたら…」
幼い男の子からは想像もつかないぐらいの辛辣な表情で、ただただ静かに頷いているセルリアンを見上げた。
「そうだとしたら、それはとても恐ろしいこと…、僕はみんなを見殺しにした」
ああ、自分は何てことをしたのだろう?
取り返しのつかないこと、そんな言葉じゃ足りない。
「セルリアン、セルリアン、僕は…」
「もう何も言うな」
現実を受け入れられない蒼紫が自ら犯した罪…。
しかし、それは罪と言う言葉で片付けていいのか?
かつてのオレが犯してきた罪とは全然違う。
蒼紫はただ一人になりたくなかっただけだ。
一人になるのが怖かったから。
幻想で構わないから、永遠に続く自分の世界を作った。
それが罪と言うのなら、人間はいくつもの罪を塗り重ねているのだろう。
「セルリアン、これから僕はどうしたらいい?」
「…」
もう蒼紫の側には誰もいない。
蒼紫は一人で生き続けなければならない。
彼自身も分かっているそんな残酷な現実。
セルリアンは小さく首を振ってオレを見た。
その時だった。
「蒼紫」
深い青色の光に包まれた雪菜の姿がそこにあった。
消え入りそうな光に包まれてゆっくりとこっちに近付く。
「蒼紫、私ね、蒼紫のことがずっとずっと大好きだったの!でも、嫌われること怖くて言えなかった」
蒼紫の瞳の高さに腰を屈め、きゅっと蒼紫の手を握りしめ言葉を続けた。
「人ってとても弱いものよ。人は一人ぼっちになりたくないから自分の弱さに気付かない振りをして大概の人は生きている。私も気持ちを打ち明けて蒼紫がいなくなってしまうの怖くて言えなかった。でも、自分の気持ちを伝えずに消えてしまうことそっちの方がずっと哀しかった。蒼紫のおかげで私は今こうして自分の気持ちを伝える事ができたの、ありがとう、ありがとう、蒼紫」
大きな瞳は潤んでいたが、涙を流さないと決めていたのだろう。
最後まで蒼紫の目を真っ直ぐに見ていた。
「…、でも、雪菜…」
僕は一人になるのが怖いんだ。
ただ、そんな自分勝手な気持ちのためにこの世界を作ってしまった。
自分を責め続ける蒼紫に、優しい声が注いでいく。
「蒼紫、蒼紫なら大丈夫、私たちは目に見えないだけでいつでもあなたの側にいる」
雪菜だけでなく、蒼紫の母親もそこにいた。
「母さん…母さんごめんなさい、ごめんなさい」
青いおぼろげな光に包まれた蒼紫の母親は優しい顔で蒼紫を抱き締めた。
「私は蒼紫に会えて本当に幸せだった。たとえ、短い時間だったとしても、あなたのおかげでたくさんの幸せをもらった、たくさんの笑顔をあなたにもらった、ありがとう蒼紫、大好きな蒼紫、ずっと大好きよ」
「僕も…僕もだよ、僕もずっとずっと母さんが大好き」
抱き締められた母親の腕の中で蒼紫は満面の笑みを浮かべた。
「セルリアン…?」
隣のセルリアンがしゃっくりのような声を出したので、視線をずらすと、セルリアンが号泣していた。
セルリアンのこんな泣き顔なんて初めて見た。
「セルリアン?」
「…大丈夫だ、人は弱いものと言うがそんなことないと思う。人は他のどの生き物より強いから、あんな笑顔を作ることができるのだろう」
蒼紫ならきっと大丈夫だろう。
セルリアンは拳で涙を拭った。
雨は上がり、暖かい日差しに包まれていた。




