蒼紫の罪
「なぁ、セルリアン。オレには何が何だかさっぱり分からないんだが…」
どしゃ降りの雨の中、先に走るセルリアンの背中に問い掛ける。
自分でも情けないと分かっているのだが今の状況が全く呑み込めず、ただこうしてセルリアンに着いて行くのが精一杯の状況だった。
セルリアンは歩を緩めることなく走り続けこっちを見ずに、一言言い放った。
「今は蒼紫の側に行かなければ」
『僕が好きなのはセルリアンだけだよ』
蒼紫の言葉がよみがえる。
真剣な眼差しでセルリアンを見つめ、想いを伝えた蒼紫。
1000年の時間を越えてセルリアンに助けを求めてきた蒼紫。
ここに来て、蒼紫にとってセルリアンがどれ程大切な存在なのかが分かった。
彼に会ったばかりのオレにも分かること、当のセルリアンはずっとその事に気付いていたはずだ。
ただてさえ責任感が強く助けを求める人間を放っておけないセルリアンにとって、何としてでも蒼紫は救いたいと思っているのだろう。
「ラビル、お前は自分が犯してきた罪と向き合ったことがあるか?」
走りながらセルリアンは独り言のように言った。
自分が犯してきた罪…。それは数えきれないほどあり、一つ一つに対して向き合うどころかいつしか忘れたことにしてその事実が無かったことにしていた。
「蒼紫は今自分と戦っている」
5分ほど走ったところで、セルリアンは前方を見据えて立ち止まった。
そこには…焼け落ちた家屋の数々。
かつて、この村一番の集落だったと思える残骸が至るところに残っていた。
その中心に座り込んだまま動かない蒼紫の姿があった。
「蒼紫」
セルリアンが声を掛けると、泥まみれでぐじゃぐじゃになっていた蒼紫は、びくっと肩を震わせて振り返った。
振り返ったものの、真っ赤に腫れ上がっている大きな薄紫の瞳にセルリアンは映っていないようだった。
「しっかりしろ、蒼紫」
セルリアンはぎゅっと力を込めて蒼紫の肩を揺らした。
「過去の罪悪感にいつまでもとらわれるな」
虚ろな目のまま蒼紫が首を動かした。
「僕が母さんたちを殺した」
消え入りそうな蒼紫の声が哀しく響く。
「違う、お前が殺したんじゃない、お前はただ約束を守っただけだろう?」
「あの日…、僕が町に出ようなんて言わなければ…、僕が力を使ってさえいれば全員助けられたのに…」
「たとえ、あの時お前が力を使っていたとしても助けられなかったかもしれない、これ以上自分を責めるな」
セルリアンが蒼紫を抱き締めた。
「セルリアン、セルリアン」
蒼紫の瞳から涙が溢れ出る。
「ああ、私はここにいる、哀しみ全て私にぶちまげろ」