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蒼紫の過去

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自分が普通の人間とは違うと言うことに気付いたのはいつからだっただろう?


激しい雨が身体中に突き刺さる。

雨音以外聞こえないこの世界。

外には人一人いない…、いるはずがないのだ。

ここは自分が作った世界なのだから。

僕が向かっているのはあの場所だ。

足が地面に着く度に泥水が跳ねる。

こんなに走っているのに、なかなか進まない。


自分は普通の人間ではない。

いつからそう思うようになったのだろうか?

僕には不思議な力があった。

この世に存在する、人・物などの時間を自由に操る事ができる。



ああ、あの時だ。

僕が普通の人間じゃないと分かったのは…。

記憶が甦る。


『蒼紫の髪は本当にキレイな髪の毛だね、男の子にしておくのもったいないねー』

家の縁側でまだ小さな僕の肩まで伸びた髪の毛を櫛でときながら、母親は言った。

『もうちょっと伸びたら切ろうか?』

優しい母親の笑顔。


庭に咲いてる白とピンクの大きな花弁を着けたリリーにじゃれついてる茶色の仔猫を穏やかな目で見つめる母親。

僕は男の子だから、髪を切ることに何の抵抗も無いのに、いつだって母はいざ切ることになるとこのセリフを言うのだ。

母とのこんな何気ないやり取りがかけがえの無い時間だった。

僕には父親がいない。

今まで自分に何故父親がいないのか疑問に思ったこともあるが、口に出せない何かがあった。

父親のことを聞いてしまった途端にこの時間が壊れると思っていたから。

幼い僕にも聞いてはいけないことと言うことは分かっていた。

分かっていたはずだったのに、この時の僕はいつもと違う僕が心に宿っていたのだろう。

そうでなければあんなこと聞くことなんて出来なかっただろう。


『母さん…、僕の父さんって誰?』


母親の手がピクリと止まるのを感じた。


『どうして急にそんなこと…?』

母さんの優しい笑顔が消え、今まで見たことも無いような怖い顔をした母親がそこにいた。

何だろう?いつもの僕ならこの先を聞くことができずに言葉を濁していたけど…。

僕には母さんに聞いて欲しいことがあるんだ。


『僕ね…、最近変なんだ』

母親の表情が更に曇る。

震えている唇を開けようとしているようだったが、結局何も言わず、いや、何も言えなかったのだろう、生唾を飲み込む音が聞こえた。

庭先で遊び疲れた仔猫が水をねだりに足元にすり寄ってきた。

僕はその仔猫をじっと見つめてから、右手を差し伸べた。

仔猫は撫でてくれるのかと思い、甘えた声で鳴いたが…、次の瞬間、目を見開いたままパタリと動かなくなった。


『え?』

驚いた母親は慌てて立上がり、僕から離れた。

『…大丈夫、ちゃんと生きてる、ほら心臓は動いてるよ』

そう、ちゃんと鼓動は聞こえる。

しかし、母親は壁に背をつけたまま、妖魔でも見るような目で僕を見ていた。


そんな力を持っているのは最早人間では無い。


母親の目はそう言っていた。


やっぱり、父親のことを聞くことも力を見せることも、間違いだった…。

もう父さんのこと…、聞かないよ。

もうこの力を使ったりしないよ。


だから、だから、そんな顔しないで…。



そうあの時二度と力は使わないと決めた。











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