違和感の正体2
雨のせいでただでさえ寒くなってきた部屋で、蒼紫は肩を震わせながら口を開いた。
「セルリアン…、本当のことって何?本当のことが自分を救ってくれるの?本当のことはいつだって僕を守ってくれやしないじゃないか…」
ぎゅっと握った拳を胸元に持っていき落ち着きなく何度か目をしばたかせた。
「…だから、偽りの世界に逃げていると言うのか?」
雨音が激しくなってきた。
「…」
「本当は分かっているのだろう?このままじゃ先に進めないって…、私に送った助けてと言うメッセージはそう言うことなのだろう?本当のお前は…」
「何でそんなことばかり言うの?本当のことは僕に残酷なことしか教えてくれない。セルリアン、僕にとって本当のことほど冷酷な物は無いよ」
そう言うなり向きを変え部屋を出て行こうとする蒼紫の前に立ったのは雪菜だった。だが…。
「蒼紫!今外行っちゃダメ!」
必死で止めようとした雪菜を突き飛ばし、外に飛び出しまった。
こんな大変な時なのに、何もできないことに苛立ちを感じた。
今のオレは蒼紫を止めることも、触れることさえもできないのだから。
「蒼紫!」
雪菜の哀しい叫び声は蒼紫には届かない。
畳の上に膝をついたままの状態で泣きじゃくる雪菜が救いを求められる人物は一人しかいない。
「セルリアン、蒼紫を連れ戻して!また蒼紫の心が壊れちゃう、お願い、蒼紫を救えるのはあなたしかいないの」
懇願の眼差しでセルリアンを見詰める雪菜。
「お願い…、蒼紫を連れ戻して…」
「…、案ずるな。必ず連れて帰ってくる。だが、それは…、この世界の終わりになること分かっているのか?」
この世界の終わり?
さっきからセルリアンは一体何を言っているのだろう?
雪菜はその意味が理解できているのであろう、セルリアンの問いに、数秒の静寂の後、こくんと頭を縦に動かした。
「本当はこの世界がずっと続けばいいと思ってる。だから、あなたたちに来て欲しくなかった。だけど…。蒼紫が今以上に傷つく姿は見ていられない。あなたなら蒼紫を救うことができるはず。あなたに救われるなら、蒼紫はきっと前に進めるはず。そのためにあなたは来てくれたのでしょう?」
赤く腫れた瞳でセルリアンを見上げた。
「そうだな、私も蒼紫に前に進んでもらいたいと思っている」
「…、セルリアン、早く早く蒼紫のとこに行って、早くしないと蒼紫は今度こそ立ち直れなくなる」
「何が起きると言うのだ?」
「もうじきこの村が獣猫に襲われた時刻になる、蒼紫がこの世界を作ってくれた時から、その時刻はみんな村の外れに固まって動かない、過ぎた事だと分かっていてもまたあの恐怖を繰り返すのは無理だから」
その言葉にセルリアンの顔が引きつる。
「と言うことは、蒼紫は村の中心に行ったと言うのだな」
言うが早いか、セルリアンは立ち上がり部屋を飛び出した。
「セルリアン!」
一体何が何なのか全く分からないが、裸足のまま走っていくセルリアンの後を追い駆けた。