違和感の正体
「どう言うことだ?雪菜?」
セルリアンの言葉はすぐに遮られた。
「こんなとこで何してるの?」
いつの間にここに来ていたのだろうか、セルリアンの声と蒼紫の声が重なった。
雪菜の後ろに立っている蒼紫の表情は、重く険しいものだった。
「あ、蒼紫…」
静かで冷たい空気が流れる中、雪菜はびくっと肩を震わせて、後退りをした。
「ごめん、蒼紫、私、何も…ただ…私は蒼紫とこのままで…」
しどろもどろの言葉の羅列。
雪菜の言葉を冷ややかに聞いていた蒼紫だったが、
「雪菜、取り合えず部屋に戻ろう」
一瞬空を見て、雪菜に手を差し伸べる。
あ、もうそんな時間…。
僅かに聞き取れるほどの小さな声の雪菜の呟き声は冷たい風にさらわれた。
「ラビル、この世界で感じた違和感の正体が分かりかけてきたぞ」
先を歩く二人と距離を取って歩いていたが急に立ち止まり、オレに耳打ちしようと一生懸命背伸びするセルリアン。
「ん?」
オレには全く分からないが。
セルリアンは何かを確信したようだ。
「だが…、それではあまりにも残酷な結末になってしまう…」
セルリアンの瞳に、幼き少女が映すことのない悲哀の色が見えた。
「やはり、人と言うのは…弱い生き物だな…」
家の中に入った途端に勢いよく雨が降ってきた。
「間に合って良かったね、蒼紫」
蒼紫と並べて歩けたのがよほど嬉しかっただろうか、または、先程までの重い空気を消し去りたかったのか、声を弾ませて雪菜は言った。
「喉乾いたねー、私、お茶入れてくる」
まるで自分の家のように箪笥から湯飲みを取り出す雪菜。
「雪菜はお前にぞっこんだな」
柱に寄りかかったままの姿勢でセルリアンは外の雨を見ながら言った。
「小さい時からずっと一緒にいたから、オレのこと弟だと思ってるんじゃない?」
考えた事もなかったと言うように肩を竦めて、蒼紫はセルリアンの前に立った。
そして、真っ直ぐにセルリアンを見つめ。
「僕が好きなのはセルリアンだけだよ」
突然の告白。それはあまりにも普通の言い方で、真剣に聞いて無かったら思わず聞き流してしまうのではないかと思うほど、気取らない言葉だった。
え?今セルリアンのこと好きって?
オレはすぐにセルリアンを見たが、当の本人は顔色一つ変えず、相変わらず外を見ている。
「そんなことより、蒼紫、よく雨が降ることが分かったな」
へ?
蒼紫の言葉が届いて無かったのだろうか?
セルリアンは何事も無かったように、言葉を続けた。
「まるで何時に雨が降るか分かっていたような感じだったが…」
告白が無かったかのように話を反らされた蒼紫はふぅーと小さく息を吐いてから、答えた。
「相変わらずだね、セルリアン…。相変わらず、僕の想いには応えてくれないんだね…。空を見れば雨が降るかどうかなんてすぐ分かるよ」
沈んだ声で蒼紫は呟き、その場を離れようとした。
「待て、蒼紫。昔から言わなかったか?私は嘘が嫌いだ」
歩を止めた蒼紫へ更に言葉を続けた。
「本当のことをお前の口から聞きたい」