約束しろ。
「この1000年、お前と離れててどんな気持ちだったか分かるか?」
ぐいと胸ぐらを掴まれた。
オレよりかなり背丈が低いから、ちょっと背伸びをしてオレの胸ぐらを掴むセルリアンに少しドキっとした。
「分かったな、2度と私から離れるな。約束しろ」
約束…。
「お、おい、オレはさっき目覚めたばかりで、何が何だかさっぱりなのに、そんな状況でどうしろって言うんだ?」
「そんなの決まってるだろう」
ふいに、セルリアンが顔を近付けた。
「……、キスしろ」
え?え?えーーーーーーーー?
キス?
セルリアンが?
頭の中がパニックになる。
確かに、セルリアンは大切で大好きな少女だった。
そう、少女だったのだ。
オレにとっては、セルリアンはまだ少女のままだったのに。
いきなり、大きくなって現れた彼女にキスしろってそんなこと言われたって。
「何を動揺してる?早くしろ」
苛立ったように、セルリアンは胸ぐらを掴む力を強めた。
その時だった。
「おーい。セルリアンさまー」
さっきまでの暑さが一瞬消え、冷たい空気が舞い込む。
声の方向に顔を向けると、小さな小さな、子供が立っていた。
男の子だが女の子だがどちらか分からない子供で、水色のニット帽を被っていた。
セルリアンはつかつかとその子供に近付き、頭を一発殴った。
「い、いてー。何すんだよ」
「お前、自分が何したか分かっているのか?」
涙目の子供にたいして、セルリアンは指をポキポキと鳴らして、低い声で言葉を続けた。
「2度とその口が開けない体にしてやろうか?」
子供はびくんと体を震わせ、助けてと言うようにオレを見てきた。
「せ、セルリアン。子供にたいして言い過ぎじゃないのか?」
念のために言っておくが、別に子供に助けを求められたからではない。
さすがに、こんな小さな子供にたいして言い過ぎだと思ったからだ。
ギロっと、しばらくオレを睨んでいたセルリアンだったが、チッと舌打ちしてから。
「それで、ホアン、何の用だ?私の大事な用を台無しにしたのだから、それなりの話じゃなかったら……、分かっているだろうな?」
子供は、ぴょんと身軽にセルリアンの肩に乗ると、何やら耳打ちをして、下に降りた。
「分かった。じゃ、いつもの時間に行くから、奴等にも連絡しとけよ」
「かしこまりました」
そう言って走り去っていく、子供のお尻に尻尾がついていたのをオレは見逃さなかった。
あいつも妖狐だったのか。
「ラビル、続きは私の部屋で話そう」
続きって……。
オレはさっきの場面を思い出し、一人で赤面していた。