舌ったらずなセルリアン
「セルリアン」
崖の上に立っている木から降りてくるなり、蒼紫はセルリアンに駆け寄り、抱きつく。
背丈はセルリアンより少し低い少年はセルリアンにくっついたまま、真っ直ぐな瞳でセルリアンを見上げる。
「今までどこに行ってたの?僕、セルリアンが戻ってきてくれるのをずっと待っていたんだよ」
大きな瞳が少し涙ぐんでいた。
その表情で彼がどれだけセルリアンに会いたかったかが伺いしれる。
一方のセルリアンは戸惑った笑顔を浮かべながらも嬉しそうに蒼紫の頭を撫でていた。
「セルリアンが突然姿を消してから、僕、ずっとこの場所で待っていたんだよ、ここにいればまたセルリアンに会えるんじゃないかって」
『ああ……』
セルリアンは小さな吐息を漏らした。
「蒼紫、お前が私を呼んだのだな」
その言葉を聞いた途端、蒼紫はセルリアンから離れ、疑わし気に小首を傾げた。
「セルリアン、どうしたの?その話し方……。まるで別人みたい」
その瞬間、セルリアンは、『しまった』、と助けを求めるようにオレを見た。
1000年の時間が経過してしまい、すっかり昔の無垢な自分を忘れてしまった今、どう話したらいいのか分からないのだろう。
だが、そんな目で見られてもオレにだってどうしていいか分からない。
「わ、わ、わたちはセルリアンらよ」
セルリアンは必死で昔の自分を思い出し、話し始めた。
か、かわいいー。
その姿が可愛すぎて……、失神するかと思った。
ああ、今すぐに抱き締めたい。
「蒼紫、わたし、わたちを待ってたって、わたちに何か用があったのか……あったのでちゅか?」
違う、違う、セルリアン、その話し方はやりすぎだ。
蒼紫は少し不思議そうな顔をしたが、さっきの横柄な喋り方よりこっちの方が彼には馴染んだようだ。
さっきと同じ真っ直ぐな瞳で答えた。
「うん!セルリアンに会いたかった、ただそれだけ」
ずこっとセルリアンが片方の肩を落としたのが分かった。
「たった、それだけのために未来から私を呼んだのか?」
「未来?それ何?それだけじゃない、セルリアン……、あのね、僕の村……、『獣猫』に襲われたんだ……」
蒼紫は目を伏せたまま言葉を続けた。
「僕には……、セルリアンしか助けてくれる人いないから……」
セルリアンの目に暗い光が宿る。
「『獣猫』に?それでどうなったんだ?みんなは?家族は?お前は怪我しなかったのか?……、あ、怪我しなかったんでしゅか?」
興奮したのだろう、今のセルリアンに戻っていた。
「うん、うん、みんなも元気……、誰も怪我したりしてないよ、でも……、セルリアンに来て欲しい」
蒼紫は村での惨劇を思い出したのだろうか、セルリアンの変化に気付いててないようだった。
「お願い……セルリアン……」
蒼紫は大きな瞳を潤ませてセルリアンを見上げた。