デシャブ
「さてと、どこまで話したっけ?」
セルリアンは軽く息を吐くと、スマホの画面を開いてみた。
「蒼紫と出会った時のことまでか……」
「ああ」
オレの返事を聞きながら窓の外をちらりと見て、目を細めた。
「本当はお前と別れてからのことあまり話したくないんだが……」
ふと、1000年前の(オレにとってはわずか数ヵ月前のことだが)、セルリアンの姿が脳裏に浮かんだ。
いつもオレの側にいてくれて、オレの事を気遣ってくれていた大切な大切な女の子。
「オレは聞きたい。オレと離れたセルリアンがどうやって生活していたか……」
そう言うと彼女は目を潤ませて首を振った。
「あの時、本当に辛かった。あの日……、お前が帰ってこなかった日、あれから全ての時間が止まった気がした、私にとってお前の存在は私の全てだったから」
そこまで言って、オレの前に立ちペンダントに触れる。
「私がこんな魔法の花なんてねだったから……、私がこんなのねだらなければお前は……、そんな後悔を毎日してた」
あの時、オレはセルリアンの願いを叶えてあげたかった。
オレが出来ることと言ったらそのぐらいしか無かったのだから。
「セルリアン……」
「だから、私は願った。お前ともう一度会えるように、お前がもう一度私の前に現れるように、そんな願いが通じたのかな?ようやく会えた!もう一度会うことができた、愛してる、そんな言葉じゃ足りないぐらいお前のことがお前の存在全てが愛しい、愛してる」
そして、オレのペンダントを握る手に力を込めて、ぐいと引っ張られ……。
自然と唇が触れあう。
「わ」
突然のキスに驚き、体を退けぞってしまった。
「いい加減慣れてくれないと困るぞ、お前の全ては私のものだ。お前の体を粉々に引き裂いて、食べてしまいたいほど愛しているんだ」
そう言ってまたキスをせがんできた。
「おい」
男性の低いうなり声で、二回目のキスは止められた。
「天狐、お前は他の者の気配にも気付かないほど鈍くなったのか?」
気付かないうちに、全身汗まみれの黒狐が帰ってきていた。
「セルリアンさま、遅くなりました」
オレに向けていた殺意のような視線では無く、満面の笑みでセルリアンにザクロのジュースを渡した。
きっと黒狐はセルリアンの笑顔が見れると思っていたのだろう。
しかし、残酷にもセルリアンは……。
「シュバルツ、お前、私とラビルの抱擁を邪魔して生きていられると思うのか?」
セルリアンの唇がわなわなと震えていた。
セルリアンの怒りで部屋が揺れている錯覚まで感じた。
やばい、これは本気で怒ってる。
「セルリアンさま……」
黒狐が震える声でセルリアンの名を呼んだとき。
セルリアンのスマホが大きく鳴り響く。
「何だ、この音、私はこんな着信音設定してないぞ」
『助けて、セルリアン、僕を助けて』
スマホから男の子の声が溢れ出る。
瞬間、部屋全体が金色の光に包まれる。
暖かな金色の光、意識が遠退いていく。
薄れゆく意識の中。
あれ?こんなこと前にも無かったっけ?
ぼんやりとそんなこと思っていた。