少し休憩
テーブルの上に置いていたグラスの中で溶けた氷がガタンと音を出した。
「喉が乾いたな、ドリンク入れ直すか」
セルリアンはキッチンに行き冷蔵庫を開けてみたが……。
「そうだった、それが最後のドリンクだった……」
くっ……と舌打ちに近い音を出し、窓の外に目をやる。
今日もとてもいい天気でギラギラの太陽が降り注いでいた。
こんな中買いに行くのは自殺行為だな……。
セルリアンも同じ思いで、
「誰か飲み物持ってきてくれればいいのにな」
その言葉は明らかに特定の者に向かってだろう。
ピンポン。
予想通り快適なチャイムの音が鳴り、家の扉が開いた。
「セルリアンさま、取り合えずセルリアンさまのお好きそうなドリンク持ってきました!」
案の定、黒狐が両手にスーパーの袋を持ち、立っていた。
額にはうっすらと汗が浮かんでいた。
テレパスの力は健在のようだ。
いや、しかし、それにしても……。
「行動早すぎだろう?」
セルリアンが飲み物を欲してから僅か数分……。
まさか、テレポートの力まで持っているのか?
そんなオレの言葉に。
「この暑い日、いつでもセルリアンさまにお出しできる飲み物を常備しているのは当然のことだ」
黒狐はオレを見てふっと鼻で笑った。
こいつのこの上から目線の態度が毎度毎度気に入らない。
完璧に見下されてる。
オレの力さえ戻っていれば、こんなやつ……。
だが……。
「ん?いつも飲む、ザクロジュースが入っていないのだが……わざとではないだろうな?」
渡された袋の中身を確認したセルリアンの不服そうな声に、さっきまでの自信満々の黒狐の顔は消え、顔面蒼白の引きつったような顔になり、慌ててセルリアンに謝り始める黒狐の姿を見てたら。
まっ、あいつはあいつで大変なんだな。
と思うと、自然に笑いが溢れた。
「申し訳ありません、セルリアンさま。すぐに買って参ります」
その言葉をいい終えないうちに部屋を飛び出す黒狐。
あーあ、この暑い中あんなに走ったら間違いなく脱水症状を起こして倒れるだろうな……。
「あ」
セルリアンが思い出したとでも言うように、右手の拳を左の手の平ででパンと受け止めた。
「そう言えば、あのザクロジュース、近くのスーパーで完売してた……」
と、平然とした口調での呟きに背筋が寒くなるのを感じた。
これは確実に黒狐死ぬな……。