信じる心
『ゆーたがいないって?どう言うことですか?ゆーたはどこに行ってしまったのですか?ゆーたにはもう会えないのですか?』
本人の気持ちが言葉に追い付かないのだろう。
見てとれるほどの動揺で。
さっきまで元気良くパタパタ動いていた耳がしゅんと垂れてしまった。
「大丈夫か?」
こんな状況の中声を掛けられるのは、セルリアンしかいなかった。
『……』
鼻をピクピクさせ、不安定に揺れている見開いた目。
その全てが白ウサギの気持ちを物語っていた。
「少し落ち着け」
重々しい空気が流れる中、彼女は自分の腕にいた白ウサギを地面に立たせた。
「私はお前の事を高く評価しているつもりだ。ただのウサギなのに、愛する者に会いたいただ一心でたった一人私たちのとこまで来た勇気。お前はよく頑張った」
『……』
「お前の気持ちはこんなことで負けないはずだろう?」
『……当たり前です』
瞳は潤んでいたが、口調はきっちりしていた。
「よく言った。偉いぞ。大丈夫、愛する気持ちを忘れない限り、必ず会えるはずだ」
セルリアンの白い手が白ウサギの頭を優しく包み込んだ。
そんなセルリアンの顔を見ていると言い様の無い暖かい気持ちが流れ込んでくる。
ああ、まただ。
セルリアンのこの笑顔にときめいてしまう。
またこの瞬間、セルリアンに恋してしまってる。
たまに無茶苦茶なことばかり言って自分のことばかりしか考えていないのではないかと思うセルリアンだけど、誰よりも第三者の事を考えているセルリアン。
そんな彼女を知れば知るほど好きになっていく。
「ラビルぅ。そんなにセルリアンが好きぃ?」
「ああ、大好きだ……って、何言わせるんだよ!」
我に返るとニヤニヤした金狐が隣にいた。
「いいわねぇ、熱々でぇ、羨ましいわぁ」
「うるさい、黙れ」
「伝説の妖狐もセルリアンの前じゃ形無しね」
「うるさい、オカマ」
ベッと赤い舌を出してセルリアンを楯にする金狐。
急に目の前にセルリアンを出されると、どうしていいか分からなくなる。
しかし……。
「ゾーラ、私のラビルをいじめるな、ラビルの気持ちは世界の誰よりも私がよく分かってる、ラビルをいじっていいのはこの世の中で私ただ一人だ!お前には言いたいことたくさんあるが、今はまだ仕事が残ってる。白ウサギ……いや、ケダマ、この後どうする?」
意外にも冷静なセルリアンが、まぁまぁと言うような目でオレを宥めてから、白ウサギに問い掛けた。
『……学校に戻りたいです。きっと他の仲間も心配してるだろうし』
分かった、とセルリアンは再び白ウサギを抱き抱えた。
「まっ、そのゆーたって奴もお前のこと気にかけてるっぽいからまた会えると思うぜ」
白ウサギが飼われている小学校の校舎を抜けた時、赤狐がポツリと言った。
「あらぁ、珍しいぃ、あんたが人を慰めるなんてぇ」
またこの女狐(?)空気を台無しにする。
『はい、もう大丈夫です。……ありがとうございました』
白ウサギは金狐の言葉など耳に入って無いように赤狐に礼を述べると、頬の赤くなった赤狐の頭に、ぴょこんと耳が出てきた。
「べ、別に嬉しかった訳じゃねーし」
誰も何の突っ込みもしなかったのに、自分で否定した。
そして、前方に見えてきたウサギ小屋に視線を移して……。
「案外すぐに会えるかもな」
ウサギ小屋の前で、一匹一匹ウサギを真剣に見ていると言うより探しているような少年がいた。
瞳が輝き始めパタパタと耳を動かす、白ウサギをセルリアンは下に降ろすと、彼女は一度こちらに向かってペコリと頭を下げてから、一目散にウサギ小屋に駆けて行った。
ウサギってあんなに早く動けるんだなと思うほど機敏な動きだった。
「本当良かったな」
心地よい風がセルリアンの長い髪をさらった。