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ゆーたに会えたら……

お社から、数十分歩いたところに古びた深い緑色の アパートが建っていた。

アパートの下には小さな公園があり、小学生低学年ぐらいの子供たちが暑い中元気に遊んでいる姿が見えた。


「このアパートからゆーたの匂いがするんだけどなー」

赤狐が子供たちを羨ましそうに見ながら言った。

「あらぁ。一緒に遊びたいのかしらぁ?やっぱり何だかんだ言ってもまだまだお子ちゃまなのねぇ」

金狐の鼻持ちならない言い方に、明らかに不愉快な表情で視線を上に上げた。

「お前らはいいよな。学校にちゃんと通えてるんだから、オレなんて一日中子狐と二人きりであの狭い社の中にいるんだぜ。一度でいいから通ってみたいと思ったっていいだろう!」

赤狐の本心が出てくるとは思って無かった金狐はバツが悪そうに、それにしても暑いわねぇ、などと話をそらした時、セルリアンに抱かれていた白ウサギが高い声を出した。


『あ、あの子見たことある。よくゆーたと一緒に遊んでる子だわ』

鉄棒でぶら下がっている一人の男の子に強い反応を示していたのだ。

角刈りをした活発そうな男の子だった。


みんなの視線が赤狐に向けられる。

「オレ?」

「大人が行ったら警戒されるだろう」

仕方ない、と言った感じで赤狐は彼に近付いた。


『もうすぐゆーたに会えますね』

今すぐにでもセルリアンの腕から飛び出てしまうのでは無いかと思うほど、白ウサギはソワソワしていた。

「気持ちは分かるがそんなに体を動かしたら下に落ちるぞ」

そうは言っても興奮を抑えられない白ウサギは鼻をピクピクさせ、長い耳をパタパタさせていた。

「もうじきこの者ともお別れか……寂しいなー」

セルリアンは力強くギューと白ウサギを抱き締め、頬擦りをし始めた。

「ああ、このフワフワの感触も最後なのか。残念だなー」

『ちょ、ちょ、っと苦しいです。ゆーたに会う前なのに毛がボサボサになってしまいます。止めてください』

そう言って止めるセルリアンでないこと分かっていた。

『私に触れていいのはゆーただけなのです』

そうか、そうかと必死の白ウサギの抵抗も空しく、セルリアンは手を緩めることをしなかった。

『ちょ、狐が帰ってきました、早く放してください』


見ると、浮かない顔をして歩いてきた赤狐がいた。

その表情にイヤな予感がした。

「……、ゆーたもう引っ越ししちゃった後だって……。ついさっき家を出ていったらしい……」

言いにくそうに一言一言、間を置いて話す赤狐の言葉が時間の流れを遅くした。


『……ゆーた……もういない……?』

子供たちの楽しげな声よりもずっとずっと小さな声だったのにやけに響いていた。











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