ゆーたに逢いたい
次の日の朝。
夏の日の朝はあっと言う間に暑さを感じる。
オレとセルリアンは昨日依頼に訪れた白ウサギと赤狐の様子が心配で早めに社に行くことにした。
『ゆーた以外の人間と一緒に寝るなんて絶対にイヤです』
などと言っていた白ウサギはオレたちが部屋に行くのを必死で引き留めていたが、初めての一人旅をした白ウサギは相当疲れていたのだろう、何かの糸が切れたように寝落ちしてしまった。
まぁ、あのまま眠ってしまったのなら特に心配することはないだろう。
案の定、セルリアンとオレがお社に行くと、既に起きていた白ウサギと赤狐、子狐がカードゲームをしている最中だった。
昨日は、あれだけ赤狐と一緒にいたくないと言っていた白ウサギだったが、そんなこと言ったこと全く覚えてないと言う感じで、すっかりその場に馴染んでいた。
やっぱり、心配することなかったな。
『あ、セルリアンたちー』
ケダマがオレたちの存在に気付き走りよってきた。
『早くゆーたを探しに行くのです。ゆーたに一刻も早く逢いたいのです』
ケダマがぴょんと跳ねた時に、丁寧に並べられていたカードが飛び散り、一枚が赤狐の頬に当たった。
「バカ白ウサギ、おいちゃんと片付けろよ……、あ、くそ、これ折れ曲がった、せっかくいつもちゃんとしまっておいたのに」
ブツブツ言いながら元のケースにカードをしまう赤狐。
見た目によらず几帳面なんだな……。
『こんなことして時間を潰してる暇は無いのです!ゆーたを探してください』
白ウサギの真っ直ぐな瞳。
誰かを想う強い気持ちは、周りの者の気持ちの心も動かす。
ケダマの思いにセルリアンは静かに頷いた。
「ラビル、私たちが初めて会った時のこと覚えてるか?」
お社を出ると、日差しは更に強くなっていた。
ケダマと赤狐と何故か金狐も一緒に同行していた。
(尻尾を上手く隠せない子狐はお留守番)
そんな三人(三匹?)の背中を見ながら
セルリアンが不意に話し始めた。
セルリアンと初めて会った時……。
オレにとっては数年前の出来事だが、セルリアンにとっては1000年ほど前のこと。
「ああ。今でもはっきりと覚えてる」
だから、セルリアンにとってはこの言葉が適切だったかどうかは分からなかったが、それ以外の言葉は違うと思った。
「……、私も一度も忘れたことはない。あの時、お前が私の前に現れなかったら、今の私はいなかったと思う。生きていく上でこれほどまでに愛しい者に出会えたこと、それ以上幸せなこと私には分からない、私を見付けてくれてありがとな。愛してるぞ、ラビル。お前を失うぐらいなら死んだ方がマシだ」
いつも通りストレートな言葉を投げ掛けてくれるセルリアン。
どうして、そこまで想われているのか全く分からないが、これほどまでに自分と言う存在を大切にされていると思うとそれだけで強くなれる。
「だから、あのケダマの気持ちがよく分かる。あのケダマがどれだけゆーたと言う少年に逢いたいかが……。必ず探し出してみせる」
オレがいなくなった1000年と言う長い間、セルリアンはどんな気持ちだったのか、どうしても気になってしまう。
「セルリアン……」
オレが声を掛けるのと同時に、赤狐の声が重なった。
「おい、向こうの方にゆーたを感じるぞ」




