一途な想い
『早くしないとゆーたはこの街から出て行ってしまうー』
セルリアンの話が逸れてしまうのを防がなければと思ったのだろう、白ウサギはオレたちの間に入って懇願の目を向けた。
「と言っても……。そのゆーたについての手掛かりは何もないし、どこから手をつけていいのか……」
セルリアンはつかんでいたオレの腕を離し、小さく息を吐いた。
どうしたものか?と言うような顔をしているセルリアンとは裏腹に、それなら!と目を輝かせながら、白ウサギは左耳についてるピンクのリボンを外した。
『これ、ゆーたがくれたものなの。これにゆーたの匂いがついてるはずです』
外したあと、リボンをじっと見つめていた白ウサギ。
『大切な大切なリボン……ゆーたとの大切な思い出……』
だから、大切に預かって欲しいと言うような表情だった。
セルリアンは白ウサギの頭に触れて、
「大丈夫だ。狐の嗅覚は動物の中でも優れている、必ずそのゆーたを探し出してみせる、だから、少しだけそのリボンを貸してもらってもいいか?」
大切なリボンだから、本当は誰にも触れて欲しくない、渡さなければゆーたを見付けることはできないと分かっていながら、躊躇する気持ち。
ああ、白ウサギを見た時から誰かに似ていると思っていたが、セルリアンによく似ているんだ。
白ウサギからのリボンを手の平で包み込んだセルリアン。
「今日はもう遅い。白ウサギ、お前はこの社で赤狐と一緒にいろ」
『……私がゆーた以外の人と夜を共にしろと?そうおっしゃるのですか?』
この言葉に一同呆気に取られた。
その中でも誰よりも、唖然としていた顔をしていたのは、赤狐だった。
「何言ってんの?お前?バカなんじゃねーの‼」
『バカじゃありません、私がゆーた以外の男性と同じ部屋で眠るなんてとんでもありません。そもそも、私は本当は動物の中で狐が大キライなんです!』
「はぁ‼なら頼むなよ!」
『それだけ切羽詰まってることなのです!』
「知らねーよ、勝手に一人で探せよ、バカ白ウサギ‼」
いつまでも続くと思っていた痴話喧嘩だったが、赤狐のこの声に白ウサギが言葉を詰まらせた。
ぎゅっと口を閉じ、しばらく空を見つめていた。
さすがに赤狐の言葉に傷付いたのかと思い、みんなが赤狐を見ると彼もしまったと言う顔をしていて、ポリポリと自分の頭を掻いていた。
だけど……。
白ウサギが言葉を詰まらせたのは、その事が原因ではなかった。
『私は白ウサギと言う名前ではありません。私の名前は……』
ゆーたのつけてくれた大切な名前……。
『私は……、ケダマです』