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白ウサギの思い

今年の春に私は、ゆーたのいる小学校で産まれた。

『可愛いなー、名前はオレにつけさせて』

その時、たくさんの子供たちが私を囲っていたけど、その中でも一際目を輝かせて、はしゃぐ男の子の声を私は今でもはっきりと覚えている。

そこにいる誰よりも小さくて細い男の子。

色白の頬を赤く染めて、私に優しく触れてくれた男の子。 

それがゆーただった。

それから、ゆーたは毎日欠かさず私に会いに来てくれた。

学校が休みの日もこっそり裏門から入って私に会いに来てくれた。

それこそ、雨の日も風の日も……。

私はそれが嬉しくて嬉しくて。

毎日ゆーたに会える事が幸せで仕方なかった。

ゆーたは生まれつき体が弱くて、普通の子が普通にできることができないって、ずっと言ってた。

びょーきのせいで何もかも中途半端で最後までやり遂げたことが一度もないって悲しそうに言ってた。

そんなゆーたが一つだけ自慢できることは一度も学校を休んだことが無いことだって。

これからもずっと通い続けるって言ってたのに……。

ある日、急に学校に来なくなって……。

私は心配で心配で仕方なかった。

逢いたかった。

いつものように頭を撫でて欲しかった。

どれだけの時が過ぎたのだろう?

ゆーたが来た。

前よりももっと細くなった体で、私の前に現れた。

『ごめん……、僕もうお前と会えなくなっちゃった。田舎に引っ越すことになったんだ』

ゆーたは私の頭を撫でながら、涙を流した。

『ずっとこの学校にいたかった』

そんな風にゆーたは泣き出した。

いつまでもいつまでもその涙は止まらなかった。

私は、ゆーたの言葉の意味の半分も理解できなかったけど、それでも、もうゆーたに会えないと言うことは伝わった。


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白ウサギの話が終わる頃には社の中は真っ暗になっていた。

赤狐がロウソクの火を点けると、その灯りの中に号泣している女の姿があった。

「わっ」

オレも赤狐も短く叫んでちいさく飛び退いた。

「いい話ねぇ」

低くしゃがれた女と言うよりも男に近い声で泣きじゃくる金狐の姿があった。

一体いつからそこにいたのだろう?

「新しく買った携帯電話の使い方が分からなくてここに来たらぁ、そのウサギが話してるから聞き入っちゃったぁ!」

ポケットティッシュで鼻をかんだ金狐は置いてあった饅頭を食べ始めた。

「そのゆーたって男の子を探せばいいのねぇ!そんなの楽勝よぉ、ね、ラビル?」

何故オレに振る?

「私もその依頼興味あるしぃ、ラビルの嗅覚は絶対でしょうー?」

だからって……。

そんなことセルリアンが許す訳ないだろう?

案の定、セルリアンは肩を震わせてオレ等を見ていた。

「金狐、最後の情けだ。死に方を選ばせよう。そして、ラビル、お前は今からバラバラにしてやる、お前の体の一部一部を愛でながら切り刻み、永遠の愛を語り合おう」

いや、そんな状態で語り合えないから!

セルリアンの言ってることはよく理解していないだろうが、恐ろしいことを言っているのは分かっているのだろう、ワナワナと体を震わせている白ウサギがいた。

この人たちに頼んでいいのかしら?

そんな心の声が聞こえるようだった。









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