白ウサギの依頼
セルリアンに抱き締められていた白ウサギは迷惑そうにうごめいた。
『離してよ』
白ウサギは、プイとセルリアンから顔を背けて話した。
話したと言う表現が適当かどうかは分からないが、動物の言葉は直接頭の中に入ってくる。
既に暗闇に包まれていたお社の中を白ウサギの叫びだけが響いてた。
『馴れ馴れしく私に触らないでいただける?私に触れていいのはこの世の中でたった一人だけなんだから』
この傲慢な話し方誰かに似てる。
そんな事を思った。
それでもセルリアンは白ウサギを離すことを止めなかった。
「生意気なその話し方も可愛いなー」
白ウサギの頬に自分の頬を擦り、じたばたと暴れる白ウサギを抱き締めるセルリアン。
「おい、大事な依頼人なんだから丁重に扱えよな」
白ウサギを抱き締めているセルリアンの姿が可愛くてついつい何も言えずにいたオレと違い早く話を進めたかった赤狐の制止の声に、セルリアンは渋々白ウサギを離すことにした。
『全く、乱暴に扱うから毛が乱れたわ。どうしていただけるの?ああ、あの方に会うまではキレイでいたいのに。と言うかあの人以外触れて欲しくないのに』
やっぱり誰かに似てる。
白ウサギは毛並みを整えながら、ちょこんと座って、改めてと続けた。
『お初にお目にかかります。この度はあなた方妖狐さまたちにお願いがございましてとある小学校からやって来ました』
やって来た?たった一匹で?
「これ、この白ウサギが持ってきてくれた饅頭」
赤狐が既に開封している白い箱をセルリアンとオレの前に出した。
って、饅頭なんてもうほとんど入ってないじゃねーか。
オレと同じことを思ったセルリアンがギロっと赤狐を見たが、悪いと全く思っていない様子の赤狐には何の効果も無かった。
「お前らが帰って来るのが遅いからだろう」
前から思っていたが、セルリアンに反抗的でいられるのはコイツと金狐ぐらいだよな。
金狐はセルリアンに弱味を握られているから一応共に生活しているが、コイツは何で一緒にいるのだろう?
「話がそれて申し訳無い。それで、私たちに頼みたい事とは何だ?」
『……』
「たった一人で学校を抜け出すほどの危険を侵してまでここまできた理由は?」
白ウサギは潤んだ瞳で、セルリアンの目を真っ直ぐに見た。
『ゆーたを探して欲しいのです。私の大事な大事な愛するゆーたに会わせて欲しいのです。時間が無いのです。ゆーたがテンコウしてしまう前に最後に一目でいいからゆーたに会わせて欲しいのです』
白ウサギの瞳から涙が溢れた。