可愛い依頼人
「おかえりなさーい、セルリアンさまー」
マンションの前でいつものようにケンケンパーをしている小狐の姿があった。
「だからー、何度言ったら分かるんだ!明るいうちに外で遊ぶなと言ってるだろう」
セルリアンの怒鳴り声にビクッとして、慌てて両手で尻尾を隠す小狐。
いやいや、そんな小さな手じゃそんなに大きな茶色の尻尾を隠すことできないぞ。
「ごめんなしゃい」
しゅんとしたまま下を見ている小狐が不憫に見えた。
そんな小狐の頭を軽く叩いて、困ったような笑顔を見せる黒狐がいた。
黒狐って、オレと金狐以外にはいい奴だよな。
「あ、そんなことよりも……」
と小狐が続けた。
「セルリアンさまに依頼が来ています。今、お社の中にいるので会えますか?」
セルリアンはしばし小狐を見て、低い声を出した。
「依頼人を一人で社で待たせて、お前は呑気にケンケンパーか?いい身分だな」
やばい、また怒られる。
そう思ったのだろう、小狐は体を震わせて黒狐の後ろに隠れながら話した。
「お社の中にはクラウスがいるし、それに、その……、依頼人って言うか……。とにかく見れば分かるよ!」
黒狐の陰に隠れていると、それだけで強くなれる気がするらしく、威勢良く話した。
「おい、ホアン……」
「まぁまぁ、セルリアン、取り合えずお社に入ってみよう」
オレはまだ何か言いたそうなセルリアンの肩に手を置いて、お社へと勧めた。
「私はぁ、先に帰るわねぇ。今日は楽しかったわぁ、またねぇ」
一言も言葉を発しなかった金狐が、右手を上げてさっさとマンションに入って行った。
薄暗く、ひんやりとした空間のお社の中。
饅頭を食べていた赤狐がセルリアンの姿を見て、慌てて飲み込もうとして喉に詰まらせていた。
お社の中には、人間らしき姿は見えなかった。
見えなかったが……。
何かいる‼
何か匂う、この匂いは……。
「おい、クラウス、まさかとは思うが……。今回の依頼人って……」
セルリアンは社の隅っこにうずくまっていた物の首根っこを掴み持ち上げた。
「ああ、そいつが今回の依頼人だよ、依頼人って言っていいのかわかんねーけど」
赤狐は饅頭の隣に置いてあったお茶を飲み干してから言った。
「これが依頼人……」
それは、セルリアンの手から逃げよう逃げようともがいていた。
「かわいいなー、こいつ」
セルリアンの瞳がキラキラと輝いた。
そして、両手で抱き締めた。
「どうしたんだ?何があったんだ、お前?」
その白くてふわふわした耳の長い生物にセルリアンはキスをした。
え?今度の依頼人ってウサギなの?