黒狐の気持ち
「人混みと言うのは苦手だな」
エスカレーターを降りながらセルリアンがポツリと言った。
「我々は何故だかいつでも注目を集めてしまうしな」
セルリアンの言葉通り、どこにいても人の視線を感じる。
「私一人が見られるならいいのだが、お前が私以外の物に見られると妬けるな。お前は常に私だけの物であって欲しい」
セルリアンがオレの頬に触れ、熱を帯びた瞳で言ってきた。
セルリアンの体温が伝わってくる。
「他の物が見てるのはセルリアンさまだけです、セルリアンさまの美しさにみとれているだけです」
エスカレーターを降りた瞬間、黒狐がオレとセルリアンの間に割って入ったきた。
その入り方が強引だったので、セルリアンの怒りに触れてしまい……。
「シュバルツ、私とラビルの間に入るとは……分かっているだろうな、自分の立場を?」
「も、申し訳ございません」
突発的な行動とは言えさすがに今のはまずかったなと悟った黒狐は深く深く頭を下げた。
「お前とは一番長い付き合いなのだから、私は誰よりもラビルが大切だと言うこと分かっているはずだろう?」
「は、はい、存じております」
「その私とラビルの間に入ってくるとは覚悟はできているのだろうな」
「本当に申し訳ございません」
深く頭を下げたままの黒狐に金狐は、ざまぁみろと言うようにクスクスと笑った。
「可愛そうな黒狐ちゃん。誰よりもセルリアンの事が好きなのにぃ、誰にも気づいて貰えずぅ、挙げ句の果てに愛するセルリアンにこんなこと言われちゃうんだもんねぇ、哀れとしか言い様がないわぁ」
金狐の言葉に黒狐が真っ赤になった顔を上げた。
え?黒狐がセルリアンのことを好き?
黒狐ってセルリアンのこと好きだったのか?
そう言われてみれば……。
今までの黒狐の行動を見ていると、なるほどと納得できる場面がちらほら浮かんでくる。
「何を言ってるんだ、金狐?シュバルツと私は育ってきた環境がよく似ていてお互い誰も頼る相手がいなかったから二人で 生きていくしかなかった、それだけの関係だ、勝手な想像をするな」
セルリアンの言葉に、黒狐の表情が明らかに暗くなっていくのが分かった。
人の気持ちに鈍いオレでも今の黒狐の気持ちが分かる。
と言うか、黒狐はずっとセルリアンのことを好きだったのに、オレと言う存在のせいで気持ちを隠すしかできなかったのか。
自分の気持ちを伝えたらセルリアンに嫌われる、セルリアンが離れてしまう、そんな状況の中黒狐は1000年彼女の側にいたのか……。
どうりで、いつもオレの存在を邪見に扱ってきた訳だ。
今更ながらに納得してしまった。
そう言えば、セルリアンは黒狐といつ頃出会ったのだろう?
オレが死んだ後のセルリアンはどうやって生きて来たのだろう?
そんな疑問が頭をよぎった。