嫉妬
すぐにドアが開き、昨日の男とセルリアンが出てきた。
「ラビルさま?どうしてここへ?」
オレがここに来ると思っていなかったのだろう。困惑したような表情でセルリアンは立っていた。
何だろう?胸がモヤモヤしてる。
セルリアンが他の男と違う家から出てくるところを見ただけで何だか釈然としない気持ちになる。
これが嫉妬と言う気持ちなのか?
セルリアンが常にオレを束縛しているのはこんな気持ちからなのか?
他の女と話しただけで電流が走る首輪をつけるぐらいに常にオレを束縛していたセルリアンが今は、自分から違う男の部屋にいることが信じられない、と言うより許せないと言う気持ちの方が強かった。
「セルリアンこそ、何でこいつのとこに来たんだよ!」
オレの語調が思っていたより強かったのだろう。
セルリアンは驚いたように、はっとした表情で手を口元に置いた。
それを見ていた昨日の男は申し訳なさそうにうつむいてから、オレに言った。
「こんなところじゃなんですから、どうぞ上がってください。良かったらそちらの方もどうぞ」
男の視線の先には黒狐の姿があった。
「シュバルツさままでもご一緒だったのですか……」
セルリアンはますます困惑したような顔をしていた。
「僕の名前は清水智輝と言います。そして、これが昨日話した彼女です」
部屋に入ると中央のダイニングテーブルに案内され、オレたちがイスに座ると、静かに話始めた。
清水がオレたちに煎れてくれたお茶を一口飲んだ、黒狐が、「あつ」と言ってすぐに吐き出していた。
清水がテーブルの上に置いた写真には、満面の笑顔を浮かべている清水と長い黒髪の清楚な女性の、自撮りをしたと思われるアップの姿が写っていた。
「彼女とは学生の頃からの付き合いで、就職が決まった頃から結婚しようと決めていて。去年の夏の花火大会の時プロポーズをしたのですが、彼女は返事は後でいい?と言ったきりで……」
最後の言葉はちゃんと聞き取れなかった。
清水は話しながら、号泣しはじめたからだ。
え?泣いてる……。
愛しい人をまだ亡くしたばかりなのだから仕方ない。
驚いたのはそっちでは無かった。
セルリアンも一緒になって泣いていたのだ。
「でも、そのプロポーズから一年経っても彼女からの返信は無く、もしかしたら、彼女は……、結婚する気なんて無かったのかもしれないなんて思い始めてしまって……。昨日の花火大会の時にこの指輪を渡してもう一度プロポーズしようと思っていたんです」
結局返事は聞けませんでした。
清水は次から次へと溢れてくる涙をティシュッで拭き始めた。
「もしかしたら彼女は僕とこのままの付き合いを望んでいたのかもしれない。結婚なんてまだ考えていなかったのかもしれない」
「そんなことないです」
清水の言葉を途中で遮ったのはセルリアンだった。
「彼女さまは、清水さまのことを本当に好きだったと思います」