尾行
「あれ?セルリアン?どこか行くの?」
次の日の朝、セルリアンが朝早くに出掛ける用意をしていた。
セルリアンがオレを置いて出掛けることすら珍しいのに、休みの日の午前中に出掛ける用意をしているセルリアンが珍しくて、声を掛けてしまった。
「おはようございます。ラビルさま。起こしてしまいましたか?」
「おはよ、いや、大丈夫だけど、どこか行くの?」
「はい、1301号室に行って参ります」
「1301号室?何で?」
銀狐と金狐の部屋は2222号室だし、黒狐はオレたちの部屋の隣だし……。
「昨日の男性に会いに行って参ります」
「え?」
聞き間違えかと思った。
何で、セルリアンが?
しかも……。
「その重箱みたいなの何?」
「あの方へのお昼ご飯です。ラビルさまのお弁当はここに置いてありますからお腹空いたら食べてくださいね」
と、キッチンの片隅に置いてあるお弁当を見て行った。
お弁当の大きさの違いにも違和感を感じたが。
は?益々訳が分からない。
「何で昨日会ったばかりの奴に弁当なんて持ってくんだよ」
「何でって言われましても……それが私にできることですから」
「は?」
「とにかく、今日から私はしばらくあの方の側にいます」
本当に訳が分からない。
どうしたんだ、セルリアン?
部屋を出て行ったセルリアンの後をつけていく。
何か女々しいよな、オレ……。
「天狐、そんなとこで何をしてる?」
こそこそとセルリアンの後ろを着けていってるところを黒狐に見られた。
「あ、いや、その……」
事の全てを話すと、黒狐はさも面白そうに……。
「ついに飽きられたのか?セルリアンさまに嫌われるようなことでもしたのじゃないのか?」
飽きられた?オレが?
オレ、セルリアンに何かしたっけ?
セルリアンに嫌われるようなこと……。
「あ」
「どうした?」
「昨日金狐とキスをした」
「‼」
束の間の沈黙。
その後、黒狐の大笑い。
黒狐がこんなに爆笑するなんて……。
「金狐とキス?本当か?それは致命的だな」
腹を抱えて笑い続ける黒狐を見てたらさすがに苛ついてきた。
「おい、笑いすぎだぞ」
「いや、まさか、金狐とキスとは……」
「でも、その後、セルリアンは許してくれたと思ってた」
そうだ、確かに許してもらったはずだ。
「あの束縛の強いセルリアンさまが簡単に許すと思うのか?」
確かに……。
今までのセルリアンだったのなら、間違いなく命は無かったと思う。
「しかし、オレの弁当も作ってあったし」
「それに毒でも入って無ければいいな」
それもそうだ。あんなことをした後だ、今までのセルリアンならやりかねない。
うーん、しかし、セルリアンなら毒殺と言うよりもっと違う殺し方をすると思うのだが……。
いや、今はそれよりも、何故セルリアンがあの男の部屋に行ったのが、まずそれを調べる必要がある。
オレは1301号室のまえに立ち、チャイムを押した。