屋上
夏の夕暮れのマンションの屋上にはたくさんの住人がいた。
夜に近い夕暮れはまだ若干明るかった。
「今日に限って何でこんなに人がいるんだ?」
以前、セルリアンが屋上でお酒を飲みたいと言って付き合って上った時はほとんど人がいなかったのに。
「今日は花火大会があるからだろう」
一緒に着いてきた黒狐が答えた。
屋上には、黒狐と赤狐と小狐、金狐、銀狐……つまり、セルリアン以外の全員集合になっていた。
花火大会?
「花火大会って何だ?」
ここの世界に来てだいぶ暮らしに慣れたものの、まだまだこうして知らない言葉がたくさんある。
「天狐は見るの初めてなのねぇ。とてもキレイでワクワクするわよぉー」
相変わらずのおネエ口調で金狐が教えてくれた。
今日の金狐の服装も、胸元を強調した体の線がはっきりと分かる服装だった。
コイツはいつもこんな服装で恥ずかしくないのか?
まぁ、人がどんな格好していようがあまり興味は無いが……。
こんなとこセルリアンに見られたら、
『ラビル、貴様、どこ見てるんだ?そんなに胸が好きなのか?ほほーそれなら、その目が二度と開かないようにしてやろうか?』
本当のセルリアンならきっとそんなこと言うだろう。
しかし、今の彼女は、きっとそんなこと言わない。
それにしても……、セルリアン遅いな。
支度があるから先に行ってくれと言われたものの、今の様子のセルリアンを一人にしておくのが心配だった。
「こんばんわ」
聞いたことのある声がしたので振り返ると……。
「神松?」
淡いピンク色の浴衣を着た神松友香がそこにいた。
「蔵田さんに誘われたので来てしまいました、迷惑でしたか?」
神松友香は、黒狐をちらっと見てから話した。
「別に構わないが……」
黒狐の返答に、神松の頬が赤くなり、
それに気付いたゾーラが面白そうに唇を吹いた。
「遅くなってごめんなさい」
人混みからセルリアンが現れた。
あ……。
一瞬言葉を失う。
長い紫色の髪を一まとめに結って、水色の浴衣で現れたセルリアンがあまりにも美しかった。
そこの場面だけが、全くの別世界に感じられるほど、幻想的なイメージにとらわれた。
時間が止まるとはこう言うことを言うのか。
「どういたしたしました?」
黙ったままのオレの目をのぞきこむ、セルリアンが本当に本当にキレイだった。
「天狐って本当そう言うとこウブよねぇ、あ、こっちにもウブなのがもう一人……、黒狐、あんたの顔も真っ赤よぉ」
楽しげに話す金狐に、銀狐が静かにしろと言うような視線を送っていた。
「変でしたか?私の格好?」
黙っているオレに不安を感じたセルリアンが視線を下に落とし自分の格好を見回した。
「いや……」
すごくキレイだよ。
と言うオレの言葉とドンと言う爆発音のような音が重なった。
見上げると、空いっぱい色とりどりの大きな火花のようなものが広がっていた。
「とてもキレイですね」
フェンスに触れているセルリアンの白い手にオレは自分の手を重ねると、セルリアンは照れたようにぎこちなく笑った。