物を慈しむ気持ち
「今の世の中物を大切に扱う人間が少なくなっている中、友香はいつもいつも物を慈しむ心を忘れていません。私はそんな友香を守ってあげたいのです」
物に宿る神、九十九神。
巫女の姿をした美しい神。
「いじめのことはオレたちが何とかする。だから、もう自分の元いる場所に戻って大丈夫」
シブロの言葉に九十九神は首を傾けた。
「私はもう友香の側にいてはいけないのですか?」
哀しそうな瞳がオレたちを映す。
「私はこれからも友香の側にいたいです」
九十九神の切ない願い。
たとえ、相手が永遠に自分の存在を気付かなくてもその相手の側にいたい。その相手を守りたい。
そんな思いが伝わってくる。
「あなたたちにも大切な人がいるでしょう?ならば私の気持ち分かってもらえますよね?」
九十九神がオレに近付いた。
オレの背中に体を寄せているセルリアンがびくっと震えたのが伝わってくる。
いつもなら、オレに女がこんな近くによってきたら、めちゃめちゃ怒るのに静かなままのセルリアンが逆に怖かった。
「とても素敵なペンダントをしているのですね」
そして、オレの首に着いているネオンブルーのペンダントに触れた。
「あなたは天狐なのですね。今はその姿に戻ることができずに悩んでいる。ならば、私が一瞬だけ元の姿に戻してあげましょう」
九十九神はオレことを見抜き、信じられない言葉を放った。
え?
本当に一瞬のことだった。
深い霧に包まれた感じがして、視界が変わる。
全身に力がみなぎる。
「ラビル?」
頭上でセルリアンの声がしたので、見上げた。
見上げた?
両手を地面につけても何の違和感もない。
オレは今天狐の姿に戻っている。
今のオレなら、この九十九神に勝てるかもしれない。
九十九神に向かい、低いうなり声を上げて威嚇した。
地面を蹴りあげ、飛びかかろうとした瞬間。
「ラビル。止めろ」
セルリアンの鋭い一言と共に、また深い霧に包まれた。
「オレ一体何しようとしてた?」
「しっかりしろ、ラビル」
セルリアンが潤んだ瞳で、オレの二の腕をきつくつかんでいた。
「なるほど。急に天狐に戻ると元の闘争心が抑えきれず狂暴な天狐になるのですね。ですが……」
九十九神は再びオレに近付き、ペンダントに触れた。
「このペンダントにはあなたの想いが詰まっています。あなたがどれだけ彼女のことを想っているのか、どれだけ彼女に逢いたかったのか……どれだけ彼女を愛しいと想っているのか……」
本人を目の前にしてこの言葉はやばい。
事実なだけに照れが半端無い。
慌ててセルリアンを見ると、セルリアンも顔が真っ赤になっていた。
しかし、オレが見ていることに気付き、すぐにいつもの自分に立て直そうとして早口で捲し立てた。
「ほほー。そんなにも私のことが好きなのか?やはり運命共同体だな。このまま永遠に共に生きよう。愛してるぞ、ラビル」