九十九神出現
夜の校舎、1年C組の教室の中。
いじめられている神松友香の机を触った途端。
激しく揺れ出した机から目映いオレンジ色の光が溢れ出し、その中に宙に浮く巫女の姿をした女がいた。
巫女?
藍色の腰まである長い髪を左右前の方だけ金色のゴムで結わえ、桜のデザインが施されている巫女の服を着た女は、赤色の冷たい目でオレたちを見下ろしていた。
「ラビル」
セルリアンが震える声でオレの名前を呼ぶとぎゅっとオレの腕を握ってきた。
見ると、落ち着かない様子でオレを震える目が見上げていた。
セルリアンのこんな表情初めて見た。
「セルリアン?」
オレがセルリアンの名前を呼ぶと同時に、巫女が口を開いた。
「お主たちは誰じゃ?私の邪魔をすると言うのか?」
凛とした声だった。
「は?邪魔とか……お前何かしようとしてるのか?」
「私は九十九神。神松友香を汚い人間たちから守るために生まれた。よって、私の邪魔をする気ならあなたたちの存在を消す」
巫女の存在感、毅然とした言葉に一瞬言葉を失った。
存在を消す?
いつもだったら、真っ先に言い返すはずのセルリアンが頑なに黙っている。
オレンジ色の光が更に大きくなり、その御度の中に殺気を感じた。
強い風が巻き起こる
本気で消すつもりか?
オレは御度からセルリアンを守るため抱き締めた。
「九十九神。オレ達は神松友香を助けたいんだ。そのためにお前の力を貸して欲しい」
教室の隅にいたシブロが九十九神の前に立った。
その御度にも動じず、落ちついた様子で、九十九神に近付く。
「話を聞かせてくれないか?」
しばらく、シブロを冷淡な目で見ていた九十九神だったが、シブロの言葉を信じたのかどうかは分からないが、話は一応聞こうと思ったのだろう。
御度を消して床の上に立った。
「友香を助けると言うのなら話を聞いてやる」
冷淡なままの口調は変わらなかったがもう敵意は感じられない。
「友香は本当に優しい子じゃ。こんな風に落書きされた机をいつもいつも消そうとして一生懸命だったのに消しても消しても次から次へと書かれる落書きにもうなすすべを無くしてしまい、ただ、机に『ごめんね、私のせいでこんな目にあってごめんね』と泣きながら謝るばかり……あんな優しい子が理不尽にいじめられるなんて間違っておる」
九十九神は愛おしさをこめて机を撫でた。
「友香に非はない。いじめの原因なんてどこにも無いのじゃ。自分たちが少しでも強者になるために、誰かを傷つける。こんな落書き私の力で消すことはできるがそれをしたところでいじめが無くなる訳ではない。だったら……、どうするべきか……いじめてる人間を消すべきか……そんなことしてはいけない、それは分かっているが、友香を救えるのは私しかいないと思ったのじゃ」
九十九神の言い分はもっともだった。
理不尽ないじめ……。
例え、神松のいじめが終わってもまた他の誰かをいじめる生活が始まるかもしれない。
「ってか、セルリアン、一体どうしたんだ?」
オレの後ろでまだ震えているセルリアンに尋ねてみた。
「……、巫女は苦手なんだ。昔、私の特殊な力が悪霊のものだと言う噂が広まった時巫女にお祓いされたことがあり、それ以来、巫女が怖くて怖くて……」
セルリアンがここまで怯えるなんて、どんなお祓いをされたのだろう……?
少し興味が湧いた。
「セルリアンでも苦手な物があるんだな」
セルリアンはむっとした顔をしてオレの腕を本気でつねった。
「このまま、この腕を引きちぎって私だけしか触れられないようにしようか?」
いやいや、だから、引きちぎったらその腕はもう意思を持ってないから!