新たな依頼
「ラビルが来てから、邪魔されなかったことは一度も無いな……」
セルリアンは明らかに不愉快な顔をして、茶色のソファーに腰かけた。
ホアンと少女は、どこにいていいか分からず、オレを見上げた。
「まぁ、話してみたら?」
気の効いた言葉が言えないオレは、こんな風に小狐と少女の言葉を促すことしかできなかった。
こんなとき、あの黒狐なら飲み物ぐらい出すのかな?
げっ、何であんな奴思い出したんだろう?
「彼女のお姉さんは、セルリアンさまと同じ学園に通う一年C組の神松友香さん」
「それは知ってる。一応、理事長として、全校生徒の顔と名前は一致してるから」
セルリアンにそんなマメなとこがあったことに驚きだった。
セルリアンは、どこから持ってきたのか大きな丸い棒つきキャンディーを舐めながら聞いて来た。
「で、その神松友香がどうした?」
「うんと……」
ずっと黙っていた少女が口を開いた。
「…。お姉ちゃん、いじめられてるみたいなの…。頑張って頑張って、隠そうとしてるけど、最近のお姉ちゃんの様子おかしいの。上履きとか教科書とかよく無くすようになったし。それにこの間なんて靴を履かずに帰ってきて……。偶然見ちゃった私に、『パパとママに言わないで』って。あんなお姉ちゃん見たことない……。」
少女は最後の言葉を言い終えると同時に泣き出した。
泣くのをずっと我慢していたのだろう。
少女の涙は全く止まる気配がしなかった。
ドアをノックする音が聞こえた。
「ホアン、多分シュバルツだ。開けてやれ」
セルリアンの言う通り、やって来たのは黒狐だった。
何で分かったんだ?
と、オレが考える間も無く、
「失礼いたします」
シュバルツは部屋に入り、キッチンに行き人数分の飲み物を用意して、テーブルに並べた。
「遅れて申し訳ありません」
セルリアンに頭を下げるシュバルツ。
「大丈夫だ。今回は色々複雑な依頼だぞ」
「……。はい」
「シュバルツは、神松と接点はあるか?」
「委員会が同じです……」
「そうか。」
話を聞いてないはずの黒狐が何故何の違和感も無く、神松が誰なのか分かっているのか?
不思議に感じていたのは、オレだけらしく、話は進んでいく。
「私とシュバルツはA組だしな」
「天狐にC組に行ってもらうのはどうでしょうか?」
「ラビルに……?」
セルリアンの口調が激しくなる。
「シュバルツ。お前自分で何を言ってるのか分かってるのか?私がいないときに、ラビルが他の女と何するか分からない。と言うか私の心臓がもたない」
「それなら……。その首輪にカメラとちょっとした仕掛けをしとけばいいのではないですか?シブロに言えばすぐに改造してると思いますよ」
「仕掛け?」
「そうです。ラビルが他の女と話したらその首輪がぎゅーっと絞まるような。もしくは電流が走るとか……」
「それはなかなかいい案だな。この依頼が片付いたら、またラビルは学習室から出さなければいいだけだし。明日から、ラビルの名前も決めないとな」
はっきりとは分からないがオレにとって恐ろしいことを話しているのは分かる。
オレ、本当にいつかセルリアンに殺されてしまうかも……。