セルリアンとの出会い
ここの地面は走りにくい。
いや、まず歩きにくいことに気が付いた。
固くて熱い地面。
天狐に戻れないと分かったオレは取り合えず二本足で歩いていた。
まっ、慣れるだろう。
……、本当に慣れるのだろうか?
セルリアンの匂いを見失ってしまったオレは、小さな滝が流れている広場に腰掛けた。
セルリアン……。
彼女と初めて会ったのはいつだったっけ?
魔界で散々悪事を重ねてきたオレは、つまはじきものにされていた。
しかし、そんなの関係無かった。
仲間などいらない。
自分が最強だと思っていた。
怪我の絶えない生活を送っていたオレは、ある日の戦闘で疲れきって……。
暗い暗い洞窟の中で。
ああ、あの時もさすがに死んでしまうのではないかと思うほどの深い傷を負っていた。
もうダメだろうな、と半ば諦めかけ傷口を舐めていると。
心地よい風が通り抜ける感じを受け、顔を上げると、小さな小さな少女が目の前に立っていた。
このオレが気配を感じないなんて……。
真っ白の長いワンピースを引きずるように立っていた少女はオレに近付き声を掛けてきた。
「痛いの?」
「…、見て分かんないのか?クソガキ」
少女はオレの言葉に気を悪くした様は無く、
「わたちが治してあげる」
と言うと、オレの傷口に手を充てて、
「いーたいの、いーたいの、消えてけ」
歌うように言うと、少女の両手が黄金色に輝き、みるみるうちに傷が治っていくのを感じた。
痛みが消えて、体力が回復していく。
「ほら、治った。良かったね、これでまた元気になったよ」
「……、お前、オレに何した?」
「おじさん、誰?」
オレの問いには答えず、好奇心いっぱいの紫色の丸い目をキラキラさせて聞いてきた。
「わたち。セルリアン。おじさんは?」
「は? 誰がおじさんだよ」
何なんだ、こいつは?
「わたちね、悪い人たちに、パパとママを殺されちゃってからずっと一人なの」
全く口調を変えないままそう言う少女に心底驚いた。
「……、お前寂しくないのか?」
「え?」
オレは柄にも無く、普通の人が言うような当たり前の質問をした。
それだけなのに。
少女の瞳から涙が溢れ出すなんて思いもしなかった。
一粒、また一粒、大きな涙が零れ落ちる姿が、キレイな映像のようにオレの脳裏に焼き付いた。
「ガキ、お前他に行くとこないなら、オレと一緒に暮らさないか?」
オレは一体何を言ってるんだ?
自分の言葉が信じられなかった。
少女は、ポカンとした顔でしばらくオレを見ていたが、すぐに大きく首を縦に動かした。
「よろちくお願いちます」