長い時間
「お帰りなさい。セルリアンさま」
マンションに入ってすぐの自販機で飲み物を買っている黒狐に遭遇した。
黒狐は帰ってきたセルリアンに気付き、軽く頭を下げた。
てか、どいつもこいつもオレの姿見えねーのかな?
「シュバルツ、小人はどうした?」
「…。解放しました」
「そうか……」
セルリアンはそれ以上何も言わずに、自販機にコインを入れた。
「ラビル。」
そして、出てきたドリンクの一つをオレに渡した。
「あいつはもう盗みはしないと判断いたしましたので」
「……。お前がそう判断したのなら、それで構わない。しかし、100年か……」
セルリアンは自販機の横にあるベンチに腰を降ろした。
「確かに100年など我々にとってはあっと言う間だが、愛する者に会えない時間と言うのはたとえ数秒でも永遠とも思えるほど長く感じるものだからな」
だからこそ。
と、セルリアンは真っ直ぐにオレを見つめた。
「この世界でお前に会えた時どれ程嬉しかったか…。どれ程幸せだったか…。お前を見た瞬間死んでもいいと思ったほどだぞ」
照れもせずにストレートな言葉。
言った本人は全く照れていないが、言われたオレは恥ずかしくなり、目を反らしてしまった。
黒狐が飲み終わった缶を握りつぶして、ゴミ箱に捨てた音がやけに大きく聞こえた。
「その長い年月ラビルを待ち続けられたのはいつも私の横で私を励ましてくれていたシュバルツお前がいたからだ。ありがとう」
セルリアンが、ありがとう……。
好きだ、大好きだ、と言う愛情表現の言葉はたくさんぶつけてくるが、この世界に来てからのセルリアンはありがとうなどと言う言葉を使うなんて思っていなかったから驚いた。
驚いたのはオレだけじゃなかった。
いつも表情を変えることない、黒狐が耳まで真っ赤になったまま、明らかに動揺していた。
また自販機にコインを入れ、飲み物を買おうとしているようだが、手が震えているようでコインがうまく入らず何度も落としていた。
ようやく、全てのコインを入れ終えても何を買っていいのか分からないようで悩んでいるうちに、コインが戻ってきてしまった。
「おい、大丈夫か?」
黒狐の狼狽ぶりが心配になり、尋ねてみると。
「あ、ああ、うるさいぞ、天狐。す、少し気分が優れないので、先に、へ、部屋に戻ります。せ、せ、セルリアンさま」
黒狐はセルリアンに頭を下げ、また顔を上げ、セルリアンを見た瞬間、顔から火が出るのではないかと思うぐらい真っ赤になっていた。
「黒狐どうしたんだ?」
「さぁな。シュバルツは昔からたまにあんな状態になることがあるんだ」
セルリアンはプルタブを開けて、飲み物を飲み始めた。