帰り道
「お帰りなさい。セルリアンさまー」
夕暮れ時、お社前で、ケンケンパーをして遊んでいるホアンに声を掛けられた。
セルリアンの隣にいるオレには目もくれず、彼女の肩に飛び乗る。
「さっき、シュバルツから、この間の指輪を預かってきたから女の子に渡してきたよ。とても喜んでたよ」
良かったね、と満面の笑顔を見せる。
その笑顔で、少女がどれだけ喜んでいるか分かる。
「そうか、良かった。シュバルツは?」
「自分の部屋にいると思うけど……」
「そう……。ホアン、早く尻尾が隠せるようになるといいな」
「……。ごめんなさい」
ホアンは恥ずかし気に俯いた。
「大丈夫、妖狐は小さな時はみんなそうだ」
セルリアンは、オレを見て微笑んだ。
「ラビル。お前は今だに耳と尻尾がうまく扱えないようだしな」
うっ……。
正確には、今だにと言うよりは、今はなんだけど……。
「あ、またあの子だ」
何かを発見したホアンは、セルリアンの肩からぴょーんと降りて、ここから見える曲がり角へ尻尾を揺らしながら四つん這いで走って行ったが、二・三回キョロキョロと辺りを見回してから、すぐに戻ってきた。
「見失っちゃった」
「ホアン、まだ明るいうちは二足歩行で走れと言ってるだろう」
セルリアンの言葉に、しゅんとして、
「ごめんなさい。……、さっきそこにいた女の子誰も見てなかった?」
オレ等二人を見上げる。
女の子?
「最近ここによく来て、こっちを見ている小学生ぐらいの女の子がいるんだ。きっと何か助けを求めてるんだよ。」
女の子で学園に行く時、オレたちの様子を伺っていた女の子を思い出した。
「そう言えば、今朝オレたちをじっと見てる女がいたけど」
「女ー?」
セルリアンの表情が強張る。
あ…、しまった。
「お前は何度言ったら分かるんだ!そんなに私を苦しめたいのか?やはり部屋のサークルに閉じ込めて、一生出さないようにしようか? いや、それじゃ、物足りない。お前の体の一部を切り取り、それをいつも持ち歩き、残りを冷凍保存して私の部屋に置いておこう」
やばい、このままどんどんセルリアンの言葉がだんだんエスカレートしていくのではないか?
本当にそうされたらどうする?
そんな、オレの気持ちを知ることのないセルリアンは、強引にオレの腕を引っ張ってマンションに入って行った。