金狐の思い出2
「終わりか?」
金狐の話に飽き始めていたセルリアンは本棚に並べられている本の選別を始めていた。
「妖狐の生態…。これを読んで、ラビルがどうすれば私のことしか考えられなくなるか研究するか」
本にそんなこと書いてある訳ないだろう‼
「ちょっとぉー。私の話まだ終わってないんだけどぉ」
オレの心のつっこみと金狐のつっこみが重なる。
「お前の過去なんて興味ない」
セルリアンはそう言うと、さきほどの本を読み始めた。
そうなると、話を聞かす相手はオレしかいないと判断した金狐は、オレに向かって話始めた。
(聞いてあげるしかないよな……。)
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それから、そこの湖でその黒小狐と何度も話すようになった。
黒小狐と話してる時だけ、私は私でいられた気がした。
男とか女とかそんな概念なんて関係ない。
自分らしく生きられればそれでいいと。
黒小狐は私の歌う声が大好きなようで、毎日のように私に逢いに来てくれた。
明日も明後日もきっと黒小狐に逢えると思っていたのに。
だけど…、ある日。
「お姉ちゃん、ごめん、僕ここに来るの今日で最後なんだ」
黒小狐は心苦しそうな表情を見せて、小さな口を開いた。
「僕の大切な人と明日から違う場所に行くことにしたんだ」
大切な人…。その言葉が心に突き刺さる。
「僕ね、本当はこの場所から離れること不安だったんだ。でも、お姉ちゃんの歌のおかげで勇気が出た。ありがとう、お姉ちゃん」
黒小狐の一つ一つの言葉が次々と私の心に暗い影を落とす。
これで最後? もう会えない?
こんなに早くこんなに呆気なく別れって訪れるものなの?
だったら、一緒にいるとき、もっとたくさん話せば良かった。
もっとたくさん笑えば良かった。
もっとたくさん、彼の笑顔が見たかった。
もっとたくさん、彼の姿を目に焼き付けておけば良かった……。
不思議なことに涙は出なかった。
涙も出なかったけど、言葉も出なかった。
黒小狐は、私に頭を下げて……。
それが、彼を見た最後の姿だった。
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「やっと終わったか?」
うんざりした顔で本を閉じた。
「ちょっとぉー。セルリアンちゃん、今のぉ、感動の話しよぉー。何でそんなに、しれっとしてられるのぉー?」
「誰もお前の恋話など興味ない」
そう言って窓際に移動して、だが……。と続ける。
「だが、お前の気持ち分からなくはない」
『あら? 珍しい』
と聞こえるか聞こえないぐらいの声でゾーラは言った。
「私は二度と後悔しないように生きたい。二度と後悔しないように」
セルリアンの目にオレが写る。
「お前に好きだと言いたい」
セルリアンの嘘偽りのないまっすぐな告白。
何度も何度も聞いてるはずなのに、聞く度に切なくなっていった。