金狐の思い出
セルリアンは、金狐が話始めたのを嫌々そうな顔で見ていた。
「私はただラビルと二人きりでいたかっただけなのに、何でこうも邪魔ばかり入るんだ。やはりラビルをバラバラにして、いつも持ち歩くべきか」
いやいや、だからそれじゃ、既にオレ死んでるから!
オレたちのやり取りなど目に入ってないようで、金狐は話を続けた。
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それは、もう遥か昔。
そう1000年ぐらい前、私が『獣猫』に入るよりもずっと昔のこと。
私が自分の性に疑問を持ち始めていた頃だった。
無造作に伸びた長い金の髪。
このままどこまで伸ばせば、私の心は満足するのだろう?
小汚ない白のノースリーブの服の胸元を見てため息。
ぺちゃんこの胸にも不満だった。
私が女じゃないこと、それは一番良く分かってる。
いつも可愛くいたい。
お花とかリボンとか、可愛い物が大好き。
だいたい、男とか女とか概念は誰が決めたの?
私は、自分の気持ちに正直に生きたい。
私は、女として生きたい。
目の前の湖に自分の姿を映した。
顔立ちはこんなに女っぽいのに。
小さな鼻、ぷるぷるとした唇。
二重の大きな緑色の瞳が悲しそうにこっちを見てる。
そんなこと考えてたら、生きてることもめんどくさくなった。
何が正しいとかもうどうでもいいや。
あー、もうこんなことで悩んでるなんてバカらしい。
私は着ている服を全て脱ぎ捨て湖に入った。
冷たい……、けど、すっごく気持ちいい。
「♪♪」
気が付くと自然に歌っている自分がいた。
やっぱり歌はいいな。
ガサ。木々が揺れる音。
そして、視線を感じる。
獣?
森の木々の中から、人影。
「ごめん、驚かせちゃって」
視線の主は、真っ黒の髪から二つの尖った耳、そして、お尻から真っ黒の尻尾を出した男の子だった。
黒い瞳が可愛いかった。
男の子はおずおずしながら、
「すごくキレイな歌声だったから、人魚がいるのかと思っちゃった」
それでも興奮が押さえきれないと言うようにはっきりと言った。
「すごいね、あんなにキレイな歌声出せるなんて」
こうもはっきり誉められると少し照れてしまう。
私は産まれてすぐに両親を亡くし、今まで何とかずっと一人で生きてきて、どこの集団にも入れず、ほとんど周りと関わっていなかったから、こんな風に他の妖狐と話すことも無かった上にこんな風に誉められるなんて思って無かったから。
「……、ありがとう」
「お姉ちゃん、もっと歌ってよ」
お姉ちゃん?
男の子から確かに距離はあったが、まさか、お姉ちゃんなんて呼ばれると思っていなかった。
「お姉ちゃんの歌もっと聞きたい」
それがその黒小狐との出会いだった。