金狐
黒狐の切なる言葉に非情にもセルリアンは、
「ここには、お前と言う邪魔者がいるだろう?」
と一言で切り捨てた。
黒狐はガックリと肩を落とし、中央に置かれているソファーに腰を降ろした。
「あんまり落ち込むなよ、黒狐。しかし、何でそこまでセルリアンに執着するんだ?」
黒狐の様子があまりにも気の毒だったので、オレは黒狐の隣に腰かけた。
黒狐は、は? と言うようにオレを軽視した。
「本当、お前は幸せ者だな。自分がどれほど恵まれてるか全く分かってないんだから」
オレが幸せ者?
いきなり、こんな世界に飛ばされて?
こんな窮屈な服着せられて?
まぁ……。
ふぅふぅと紅茶を冷ましながら飲んでいるセルリアンを見る。
セルリアンに逢えた、それだけは本当に幸運だったと思う。
*********
「やっと二人きりになれたな」
学習室に入るなり、セルリアンは後ろからオレに抱きついてきた。
急な抱擁に……。
「ラビル。耳と尻尾出てるぞ!」
あ!
また耳と尻尾が……。
何で自分の意思とは関係なく出てしまうのだろう?
「本当、伝説の天狐が情けなぁい」
セルリアンじゃない声がした。
この甘ったれた声は……。
声の主を探すと、壁に置かれているソファーで寝転がってる金狐がいた。
「オカマ狐……」
セルリアンが怒りで体を振るわせていた。
「ひっどぉい、セルリアンちゃん。オカマだなんて。私の心はセルリアンちゃんより女の子よぉ」
「お前が何故ここにいる?」
金狐の言葉を遮り、セルリアンが唸るような声を出した。
「今日の午前中、私の授業無いこと気付いてぇ、少し眠ろうかと思ってぇ」
「ふざけんな。ここはお前の部屋じゃない」
「セルリアンちゃんの部屋でも無いわよねぇ」
てか、金狐って何を教えてるんだ?
そんなに頭いいようにも見えないし……。
「天狐……。私のこと心でディスったでしょう?私が教えてるのは音楽よぉ」
こいつ……。心が読めるのか?
それともオレが分かりやすい顔をしているのか……。
「音楽?お前が……」
金狐と音楽のイメージが結び付かなくて……。
言葉が続かなくなっていた。
「ゾーラはな…。こう見えて、魔界一の美声の持ち主だったんだ……」
セルリアンがイライラしたように頭を掻きながらオレに教えてくれた。
「過去形はやめてぇ。まだ歌えるわよぉ」
何か意外だな。
「こぉ見えて、私ぃ、歌姫だったのよ」
嬉しそうに喋り始めた。
「私ね、昔から歌うことが大好きだったの」
どこか遠い目をして、金狐が語り始めた。
(って、これってこのまま聞く流れなのか?)