黒狐
「おい、早くオレっちを出せよ」
学校に着き、理事長室に入り、黒狐が鞄から瓶を取り出した瞬間に、小人が暴れだした。
「出したら、姿を消して逃げる気だろ」
黒狐は、既にイスに座っているセルリアンに紅茶を入れながら、小人に話す。
「お前ら盗人小人は、数十秒姿を消すことができるからな。その間ここから逃げ出す気だろう?」
「そんなことしないって。そこの紫の髪のねーちゃんに聞いてみろよ。オレっちはもう何もしないから」
「まず、女の子から盗んだ指輪を返せ」
セルリアンに紅茶を差し出しながら、表情を変えずに淡々と話す黒狐。
「シュバルツ、砂糖が足りないぞ」
「申し訳ございません」
しまったと言うように顔色を変えて、慌てて砂糖を持ってくる黒狐。
いつも無表情の黒狐がこんな顔見せるのはセルリアン絡みのことだけだよな。
セルリアンのことがそんなに怖いのか?
「おい、紫のねーちゃんの言いなりの黒狐ー。早く出せってば」
小人の言葉に黒狐は冷淡な顔のまま、小人の入ってる瓶を逆さまにして思いきり左右に振り回した。
「わぁーわぁー、やめろー。悪かった、言い過ぎたー。もうバカにしないから」
「バカに?ほほー。お前がオレをバカにするとか、ずいぶんオレもなめられた物だな」
「悪かった悪かったって。オレっちが悪かったって」
それまで黙っていたセルリアンが紅茶を一口飲んでから、口を開いた。
「シュバルツ。それぐらいにしてやれ」
セルリアンに言われたらやめるしかない黒狐は静かに瓶をテーブルの上に置いた。
「私とラビルは隣の部屋に行くが、シュバルツ、お前はその小人の処分といつもの書類整理をしといてくれ。」
そう言われたら、従うしかない黒狐は傍目にもはっきり分かるように、しゅんとした顔をした。
「小人をあまりいじめてくれるなよ」
「分かりました。……、しかし、セルリアンさま、この部屋で、天狐といるのではダメなのですか?」
お‼
オレが見た限り、セルリアンに対する初めての抵抗とまではいかないが、自分の意見をぶつけてみた。