狐たちの登校風景
「おはようございます。ゾーラ先生。今日も素敵な格好ですね。とても似合ってます」
一人の女子生徒がゾーラにペコリと頭を下げて、羨望の眼差しを向ける。
「あらぁ。おはよぉ。ありがとぉ」
ゾーラの返事にふわぁと顔を赤らめて走って行く女子生徒。
きっとあの子もゾーラが男だと言うこと分かっていないんだろうなー。
今日のゾーラも完璧な女の格好だった。
胸を強調した紫色のミニスカートのワンピース。
同じ色の高いヒールを音立てて歩く度に胸とお尻がプルプルしている。
「イテっ」
腰に鈍い痛みが……。
見ると、セルリアンがオレの腰を思いきりつねりながら、恐ろしい顔でオレを見上げていた。
「セルリアン?」
「ゾーラのどこを見てるんだ!そんなに胸の大きい女がいいのか?その目をくりぬいて私だけしか見えないようにしてやろうか?」
いやいや、くりぬいた時点でその目はもう視力失ってるから見えないと思いますけど……。
と、そんなこと言える訳もなく……。
「……ごめんなさい」
その言葉で許されたかどうかは分からないが、そんなこと言ったら言ったで、今度は、黒狐たちが、
『伝説の天狐が情けない』
とでも言うように嘲笑ってるし……。
オレの立ち位置って……。
「シュバルツさま、これ受け取ってください」
今度は何人かの女子生徒が黒狐に手紙を渡してくる。
シュバルツは表情を変えることなく、
「ありがとう」
と言ってそれらを受け取った。
女子生徒はこれまた、『キャー』と黄色い声を上げて喜びながら、その場を去って行った。
ここの学校と言うのは一体何なんだ?
シブロもシブロで熱い視線送られてるし。
セルリアンは男女問わず、支持者のように憧れの眼差しを向けている。
そんな中で……。
ん?
誰かに見られてる気が……。
視線の先には、一人の女子生徒がこちらの様子を伺っていた。
見るからに真面目そうなメガネをかけた女の子。
今にも消え入りそうな暗い印象を受ける女子生徒が、何か言いたそうなこちらを見ていたが、オレと目が合うと慌てて反らし、人混みに消えて行ってしまった。
「ラビル‼」
セルリアンの怒鳴り声。
「私以外の女を見るなと、何度言ったら分かるんだ!」
やばい、また怒りに火をつけてしまった。
セルリアンの言うことは無理があるよな……。
だけど……。
昨日の夜オレに見せたセルリアンの表情が頭をよぎる。
1000年、オレを待ち続けたセルリアン。
それだけ愛されてるってことだよな……。
オレは自分に言い聞かせた。