長すぎる年月
「小人……。とても言いにくいんだが、多分その女の子はもう亡くなってると思う」
いつもの横柄な言い方ではなくしんみりとした言い方でセルリアンは続けた。
「人の命はそんなに長くない。お前があっと言う間の100年だと思っていても、彼女にとってはとてもとても長い年月だったはずだ」
小人は、セルリアンの言ってる意味が飲み込めず目をパチクリさせていた。
「彼女が死んだ?」
意味が分からないと言うように小人は騒ぎだした。
「また会えるって。指輪必ず届けるって約束したのに。それなのに……」
そして、大きな声で泣き出した。
セルリアンは、ただただその様子を眺めていた。
いつものセルリアンらしくないな。
いつもだったら、容赦なく罵倒しそうなのに。
「本来ならば、ここにある私たちが契約書と呼んでいるものに、自分で考えた反省の一言と自分の毛を、その瓶の中で燃やすと、契約終了となりお前を解放するんだが……」
「契約…終了?」
「もちろん、契約違反の場合は死より辛い事が待っていると思え」
さすが、セルリアン。
そのセリフをこんなに恐ろしく言える人間はセルリアンしかいないだろうと思えるほどふさわしい言い回しだった。
「だが……。もうお前は盗みを繰り返さないと思うんだが……」
たとえ、指輪が見付かったとしても、もう約束した女の子がいないから。
セルリアンはそう伝えたかったのだろう。
「だかな、私は以前一度、お前と同じ種族の盗人小人を捕獲したことがある。奴も二度としないから今回は見逃してくれと約束したから逃がしたのに、見事に裏切ってくれたよ。お前らは元々盗み癖がある種族だから、やはり契約書を書かせるべきか……」
一度裏切られた経験があると語っているのに、セルリアンはこの小人に契約書を書かせるのを悩んでいるようだった。
契約書を書かせたことで、この小人の危害が及ぶことはない。
それなのに、それをためらう理由は。
それは、きっと……。
「今日は疲れて頭が働かん。お前の処分は保留だ。明日指輪を返してもらい処分を決める」
そこで、セルリアンはテーブルの上にあったグラスに入った赤い液体を持ち、ベランダに移動した。
「セルリアン?」
セルリアンの後を追うと、セルリアンはその赤い液体を一気に飲み干していた。
「ラビル。お前に分かるか?逢いたい物に長い間会えない気持ちが…。気が狂ってしまうのではないかと苦しい気持ちが。いっそうのこと気が狂った方が楽だと思った。もう死んだ方が楽だ……、だけど、もし、もし、もう一度逢えるのならば、生きたい、生きて、お前に逢いたい。そして、長い間私を待たせた苦しみをお前にも味あわせてやりたかった」
「……」
「ラビル、私は今も昔もお前を愛してる」
「…、ああ。」
「次お前が離れたら、私は確実に死を選ぶだろう。私の体がたとえ不死身の力を持っていて体は生きていようとも、心が死ぬだろう」
その意味が痛いほど分かった。
セルリアンの孤独も痛みも全て分かると言ったら嘘になるが、セルリアンがどんな思いで生きてきたが分かるから。
「セルリアン……」
オレはセルリアンの隣に立ち、華奢な肩を抱きしめた。
「‼」
そして、驚いた顔でオレを見上げるセルリアンの唇に、キスをする。
時間の止まる感覚。
愛しいセルリアン。
これからは二度と離さない。
二度と独りにさせない。