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指輪の思い出。

部屋に戻ると、何やらいい匂い……。

おおー、食い物だ。テンションが上がる。


「ホアン、クラウス、そして、シュバルツ、今日はもう帰っていいぞ。」

玄関先まで来た、三人を無情なまでに帰そうとするセルリアン。

「えー、お腹空いた」

「おい、何も食わせない気か?」

「最後まで見届けさせてください。」

三人がそれぞれ自分たちの言いたいことを言っていたが、セルリアンが一喝する。

「まず、ホアンとクラウス。残念ながらここにお前らの食事は無いが、お前らのためにシュバルツがおいなりさんを用意してくれるとさっき言ってたぞ。だからもう帰れ」

「お。さすがシュバルツ」

と、小狐と赤狐は嬉しそうな顔と

対象的に明らかに不服そうな黒狐の顔。

しかし、セルリアンの性格を熟知している黒狐は諦めたように、『早く帰ろ』と言うように二人に引っ張られて言った。


「さて、邪魔物はいなくなった。ラビル、二人きりだ。私のこと好きか?」

単刀直入なセルリアンの言葉に、どうしていいか、たじろいてしまう。

「どんなんだ?早く答えろ」

「せ、セルリアン。オレは……」

どう答えようか、一瞬戸惑ったが、

「オレも好きだよ」

オレの記憶のセルリアンと多少(?)違って戸惑うこともあったが、オレの気持ちは変わっていない。

もう一度、セルリアンに逢いたくて、今ここにいる。

「え?」

自分から聞いてきたくせに、セルリアンは頬を赤くした。

その表情は、やはり昔のセルリアンと変わっていなくてとても愛しくなる。


「おい。おい。出してくれよう」


瓶の中で暴れる小人の声が雰囲気を壊す。


「ほぉ。そんなに早く死にたいのか? きさま……」

セルリアンのこめかみがピクピクと動いた。

「セルリアン、まず指輪を返してもらうのが先だと……」

それもそうだ、とセルリアンは瓶の中の小人に話しかけた。

いや、話しかけたと言う表現が適切だとは思わないが……。


「おい、指輪をどこにやった?」

小人は、少し戸惑った表情をしてうつむいた。

そして、聞き取れるか聞き取れないぐらいの小さな声で(瓶の中に入っているから余計に消えてしまいそうな声で)、

「あの指輪も…。オレっちの探してた指輪じゃなかった……」

そう話す小人に、セルリアンはさっきまでと違う顔で問いかけた。

「何か訳があるなら聞いてやろう」


「オレっち、昔、ある人間の事が大好きだったんだ。女の子もオレっちのこと大好きって言ってくれた、だけど、その女の子は……」



---------------------------------------------------------------

『ねぇ、小人さん。私のお母さんは本当のお母さんじゃないの。だから、お母さんは私のこと好きじゃないの……』

女の子らしい色に包まれた部屋の中、毎日会いに行くオレっちに、悲しそうに話す女の子。

『私の本当のお母さんは私を産んですぐに死んじゃったから、お母さんとの記憶ほとんど無くて、でもね。これ』

女の子は首にぶら下げている指輪をオレっちに見せてくれた。

『これね、お母さんが大切にしてた指輪なんだって。お父さんがそれをネックレスにして、私にくれたの。この指輪だけが私とお母さんの繋がりなの。これはとても大切な指輪なの』

お母さんの指輪の話をするときだけ見せる笑顔が逆に切なく映ったけど、オレっちは彼女が本当に大好きだった。


そんなある日のこと……。

オレっちがいつものように彼女の部屋に入ると、部屋の隅で号泣している彼女を見たんだ。

訳を聞くと、


『ネックレスのヒモが切れてて…。指輪無くしちゃったの……。お母さんの大切な指輪……。無くしちゃったの……』

あそこまで号泣する彼女見たことなかった……。

金色のハートのシェイプ、中央に大きな赤い石、周りが紫の小さな石に囲まれた指輪。

『泣かないで、オレっちが必ず見付けてくるから。それまで待ってて』


それから、オレっちは毎晩その指輪を探してるって訳さ。


--------------------------------------------------------------


「で、ユリカちゃんから盗んだ指輪はそれだったのか?」

一通り話を聞き終えたセルリアンが問いかけると小人は首を横に振った。


「それが分からないんだ」

「分からない?」

「オレっち、あれから毎晩毎晩その指輪を探してた。彼女の指輪の内側にはローマ字でmariってお母さんの名前が掘られてるらしく、いくら探しても見付からず、探しているうちにずいぶん遠くまで来てしまったようで、もう彼女に確認を取ることもできなくなってた」

「お前はどのぐらいの時間を探していたんだ?」

小人は考えるしぐさをして、自分の指を何度も何度も曲げては伸ばし曲げては伸ばしした後に、

「もう100年近くだな」

と何ともないように答えた。


100年近く‼

どれほどのながい時を彼は探し続けていたのだろう?


「長かったな」

「いや、ちっとも。いつか彼女に指輪を届ける、その時の彼女の笑顔を想像してたら、あっと言う間の時間だったよ」 


100年と言う長い時間を何ともないように答える小人。


満面の笑顔で答える小人の顔を見て、一瞬セルリアンの目が潤んだように見えたのは気のせいだったのか?










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