赤狐と依頼
いつから、その少年はそこにいたのだろう?
月明かりに照らされたお社の隅で両足を伸ばし、こちらを見ていた。
この世界に来て妖力が衰えたせいなのか、全く気配に気付かなかった。
真っ赤な髪をした少年は、髪と同じ色の太い尻尾を隠そうともせずに上下に揺らしていた。
こいつも妖狐か……。
一体何匹いるんだ……。
「へぇー、あんたが伝説の盗賊天狐? 話しに聞いていたのと違って弱そうだね。オレでも勝てちゃいそうな感じ」
赤狐は物珍しそうにオレの周りを一周しながら、子供らしい高い声で言ってきた。
「クラウス、私のラビルに何てことを言うんだ。ラビル、こいつはクラウスだ。主に夜の稼業を担当する妖狐だ」
赤狐にきつく言った後ですぐにオレに紹介した。
セルリアンに叱られた赤狐は肩をすくめてから、小さな声で、おずおずと、
「よろしく……」
と言った。
セルリアンがそんなに怖いかな?
セルリアンと目が合う。
顔は大人になったものの、昔のままの美しい顔立ち。
オレと目があったセルリアンは、オレの目の周りを触り始め、
「ああ。愛しのラビル。もう二度とこうして月明かりの下でお前の顔を見ることはできないと半ば諦めてた。見れば見るほどに、愛してると言う気持ちが体から溢れそうだ。お前のキレイな目をえぐりとってそのまま保管していつも持ち歩きたいぐらい大好きだ」
愛の告白をされているはずなのに、悪寒が走った。
セルリアンは一体いつからこんな風になってしまったのだ?
「おい、話が脱線してるぞ。小人の話はどうなったんだよ?」
赤狐の言葉に、セルリアンの表情がピクリと固まった。
「クラウス、私とラビルの邪魔をするとはいい度胸だ。お前の一番ご自慢の尻尾をこの場で引っこ抜いてやろう」
とても低い声が余計に恐怖感を与えた。
やばい、またセルリアンの変わった言動が始まった。
「 セ、セルリアン。と、と、取り合えず早くその依頼とかをおわらせて、二人きりの時間を過ごしたいな」
セルリアンは、オレを見てまた嬉しそうに笑い、
「そうだな、ラビル。さっさと終わらせて二人きりの時間を過ごすとしよう」
ひとまず、安心。
子狐と赤狐はセルリアンの迫力に二匹で抱擁するようにくっつきながら、こちらの様子を見ていた。