残酷な過去
「なぁ、お前は死んだのにどうしておれちんは何で生きなきゃなんねーんだ?このまま永遠に孤独に生きていて何が楽しい?ずっとそう思って彼女を憎んだ」
穏やかな口調から溢れ出てくる宿怨の言葉はどこか悲しく響いていた。
「命を伸ばす行為がどんなによこしまな事なのか分かっていたのか?分かる訳無いよな。彼女はまだ幼い子供だった。彼女はただただおれちんとずっと一緒に生きていたかったその僅かな思いがこんなにも残酷な願いになるなんて思いもしなかっただろう…そんなの…」
分かってる、分かってるけど、どうしたらいいんだ、自分は一人きりこれからどうやって生きていけばいいんだ?
ブレットは囀ずるように途切れ途切れ言ってから視線を下にずらした。
自ら望まない永遠の命がもたらしたモノは永遠の孤独と言う気が狂いそうな時間だった。
いや、むしろ気が狂ってしまった方がどんなに楽だったか分からない。
無情に過ぎるだけの時間に蝕まれる心が闇に落ちていくには時間はかからなかった。
自分の体は既に闇に支配されていくのが分かった。
自分を閉じ込めていた人間達を切り刻みその喉元を噛み契っていった。
その度に自分が正常じゃなくなっていくのが分かった。
鉄臭い香りが周りを埋め尽くす。
その匂いに余計に気持ちが高揚していく自分は完全に常軌を逸しているのが分かった。
重くのしかかった雲がポツンポツンと灰色の雨を落とし、冷たい滴が先程までの
憎悪の心を冷やしていき、さっきまでの赤い景色がモノクロへと変わってゆく。
ああ。もう戻れない。
朦朧とする意識の中で見たのは足元でまだ微かに動いている人間の子だった。
こちらを見上げるその力無い瞳は自分をこんな姿へと変えた彼女そっくりだった。
「おれちんは彼女の孫にまで手を掛けていたと言う事に気がついたのはそれからもう少し先の事だった…。最悪な結末だろう?おれちんの罪は文字通り永遠に消えない。生きながらえながら咎の刻印を背負い永遠に休まる事のない時間を生きるのがおれちんに与えられた宿命だと思ってた」
軽そうな彼の見た目から想像できない程の沈痛な話しを終える頃には既にお昼を知らせるチャイムが鳴っていた。
物憂げな面持ちで誰一人口を開けない状況の中で初めからその内容を知っていたと思われるセルリアンは表情一つ変えずおもむろにブレッドに近付き背後から肩を抱き締めた。
「私がお前と初めて会った時、お前は見るのも無惨な程ボロボロだった。何も語らなくともその姿だけでお前がどれだけ苦しんでいたのかが分かったから放っておけなかった」
ブレッドの開ききった瞳から一つ涙が落ちた。