黒狐登場
「なぁ、学校って何だよ?」
早足で先を歩くセルリアンに声を掛ける。
オレやセルリアンと同じような服を来た人間たちがたくさん歩いている中。
セルリアンは説明するのも、めんどいと言うように、振り返った。
「着いてくれば分かる。それと学校内では、私のことはマアヤと呼ぶこと」
また、面倒な注文を……。
セルリアンはそんな子じゃなかったのに……。
セルリアンはいつもワガママの一つも言わない女の子だった。
だいたい、マアヤって何だよ?
「……。真綾さま」
低い男の声とともに、また一瞬冷たい空気を背後から感じた。
振り向くと……。
オレと同じぐらいの身長、そして、今着ているオレと同じ服。
同じ服を着ているのに、着方の問題なのか?
畏まったような彼の服装。
真っ黒の髪、眼鏡の奥の切れ長の瞳、端整な顔立ちをした男がセルリアンを見ていた。
「おはようございます、真綾さま」
オレの方など見向きもせずに、セルリアンに近付いた。
「黒嶺、彼がラビルだ」
セルリアンのその言葉で、その男がようやくオレの方を見た。
その男のオレを見る目。
まるで、汚物を見るような目だった。
しかし、話し方はとても穏やかだった。
「おはようございます、ラビルさま。貴公のことは、以前から真綾さまに聞いておりました。何でも、伝説の天狐の血を引いているとか…。そのくせ、『獣猫』集団に命を取られたとか……。そして、真綾さまを1000年も待たせて、今さら現れたとこで、真綾さまの傷が癒えるとは思いませんが……」
長々と……。よく喋るその口調は、とても改まったものだったが中身は
オレの悪口しか言ってない。
「オレにケンカ売ってんの?てか、お前も妖狐だよな?」
昨晩、マンションの前でセルリアンのとこにいた小狐と同じ、妖狐の匂いがする。
黒狐は、ちらっとセルリアンの顔色を伺ってから業務的に話始めた。
「私の名前は、黒嶺シュバルツと申します。この天空学園の副理事を務めています。ちなみに、真綾さまがこの学園の理事長です」
天空学園?副理事?理事長?
訳の分からない言葉がたくさん出てきて、どうしていいのか分からない。
「見てみて。シュバルツさまと真綾さまよ」
「いつ見てもお似合いの二人だよね」
気付くと、オレたちはたくさんの人間に囲まれていた。
黒嶺がその人間たちに軽く手を上げると、女子たちの黄色い声が飛び交った。
何だ? 何だ? 一体?
本当にここは一体何なんだ?
「ねー、見て、真綾さまの隣にいるあのイケメン、誰かしら?」
「あの銀髪、地毛なのかしら?」
「ちょっと人間離れした雰囲気も素敵じゃない?」
「赤のチョーカーとか、センスいいよね」
さっきまで、黒狐のことを言っていた女子たちがオレを指差し騒ぎ出した。
「おい、分かってるだろうな」
ぐいと、セルリアンに首のワッカを引っ張られた。
「今朝話したこと忘れた訳じゃあるまい。お前は私以外の女を見るな、見られるな!」
こめかみをピクピクさせているセルリアン。
いや、見られるなってこの状況でどうすればいいんだよ。
どうすることもできないオレは仕方なく、空を見上げるしかできなかった。