伝説の盗賊
はぁ、はぁ。くそ。
もう逃げ切れないと言う事が本能的に分かった。
幾多の戦いを経験してきたオレだからこのまま奴等に捕まって殺されるか、もしくは運良く逃げ切れたとしても疲れきったこの体じゃこのまま命が尽きるのを待つしかないと言うことがよく分かっていた。
精一杯走ってきた4本の足もう限界だと言うことが分かりこのまま狐の姿でいるより最後は慣れ親しんだ人間の姿に戻る事にした。
しかし、もう不十分な人間の姿は耳と尻尾だけ狐のまま残ると言う不完全なモノだった。
そうだな、ここで命を落とすべきことがオレの宿命なのかもしれない。
散々悪さをしてきて、多くのものの命を奪ってきたオレに相応しい死に方がやってきたのかもしれない。
でも、何故僅かながら、死ぬことを抗ってしまうのか?
何故、僅かながら生きたいと言う思いがあるのか?
それは、きっと……。
ぽつりぽつりと雨が振り出してきた。
傷口に染みてくる。
小雨だった雨が激しくなる。
雨音しか聞こえない森の中、オレは木陰に足を伸ばして座り込んだ。
もう助からないと分かっていた。
それでも、もう一度、もう一度、あの少女に会いたかった。
全てを無くしたオレにとって彼女だけが救いだった。
腰までの紫色の髪をなびかせて、いつも白のワンピースを着てオレの前を走り回っていた少女。
まだ幼い彼女には、不思議に力があった。
どんな傷も直す治癒の力。
いつも傷を負ってくるオレの傷を直してくれていた少女。
さすがに、命を落とした場合復活させるのは無理だろうなー。
しくじったなー。
『なぁ、セルリアン、お前って何か欲しいもの無いの?』
いつもオレのために動いてくれる少女にプレゼントが送りたかった。
『うんとね、魔法の花が欲しいな。百年に一度咲くか咲かないか分からない魔法の花。でも、その花を咲かせる事ができたらどんな願いでも叶えてくれるんだって』
まだ、あどけない顔に満面の笑みを浮かべて言う少女の願いを叶えてあげたかった。
つーか、魔法の花がまさか、あいつらが持ってるなんて思わなかったから。
魔法の花を今持ってたのは、この世の全てを破滅させることしか頭にない殺戮集団、『獣猫』。
奴等のアジトに潜入するまでは良かったんだが、甘かったな。
この花びらしか持ってこれなかった。
オレの手の平に握っているもの、透き通る水色の花びら……。
彼女にこれだけでも渡したかったな。
もう一度だけ……、彼女に……、会いたい……。
深い睡魔が襲ってきた。
幻でも見てるのか?
深い金色の光がオレを包み込んだ気がした。
死ぬ前の幻……。きっと、そうだ。
オレは全神経が動かなくなるのを感じて目を閉じた。