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BLACK DEAD  作者: 佐倉 響
1/1

TRAGIC

「死」とは案外身近にあるものだ。

今こんなことを考えているときでも、死のうと思えば死ねるのだ。


そう、例えば僕は今こうやってベランダで黄昏たそがれている訳だが、ここから飛び降りてしまえば一瞬で僕の人生に終止符が打たれる。そう考えるととてもつもない恐怖に襲われる。

別に飛び降りなくても、部屋にある延長コードで首を吊ることもできる。

まぁ、仮に自殺がしたくても首吊りは絶対にやらないが。ただでさえ醜い姿なのに、汚物を垂れ流したまま死ぬなんて屈辱だ。もし死ぬなら雪山に行って凍死しよう。まだマシなはずだ。


何故こんなことを考えてしまうのか、自分でもさっぱり分からない。

いじめられている訳でもない、何か失敗した訳でもない。今日も平穏に過ごした。

でもきっと僕だけではないはずだ。死んだら自分はどうなるんだろう?死ぬ瞬間の感覚はどのようなものなのだろう?ていうか死ぬってなんだ?そう思っている人間は必ずいるはずだ。

僕自身、人が死んでもしばらく実感は沸かない。「死ぬ」というより「眠った」の方がしっくりくる。


「風邪ひくよ、ゆう

呆然と煙草を吹かす僕に、聞き覚えのある声が耳に入った。

「…小夜さよ

彼女は萩野はぎの小夜。僕と同棲している。何の取り柄もない僕、高山たかやま夕が唯一自慢できること。それが彼女だ。

「夕飯できたよ、食べよう」

僕は小夜の言葉に頷くと温かい部屋に戻った。



「仕事、どうだった?」

「まぁまぁだったよ、小夜は?」

「うん、私もぼちぼち。やっと慣れてきたよ。」

小夜が作った料理を頬張りながら会話をする。これもすっかり日常と化してしまった。

平凡だが、とても幸せだ。会社で嫌なことがあっても小夜と話せば一気に癒される。

本当に感謝してもしきれないくらいの存在だ。


バチン!!!


!?

部屋が真っ暗になる。ブレーカーが落ちたのだろうか。いや、そんなはずはない。

あの音は何だ?ブレーカーが落ちただけで、あそこまでの音が出る訳がない。

天気が悪いわけでもなかったし、その前後に事故が起こった感じもない…意味が分からない。


ガラガラッ


部屋に響く扉を開ける音に僕は首を傾げる。

「…小夜?」

何でベランダに出たんだ?夜とはいえ外の方が街の光で明るいからか?

だがここから見る限り外は闇に包まれている。きっと他も停電しているんだろう。

「小夜、どうしたんだ。何かあったのか?」

僕はベランダへ向かうと立ち尽くす小夜に声をかけた。

「…げて。」

「は?」

「逃げて!」

ベランダの下を見ながら突然声を荒げる彼女に僕の肩が小さく跳ねる。

「ど、どうしたんだよ。」

「大丈夫、大丈夫だから。「アレ」はまだ気づいてないから。」

「アレ?アレってなんだよ!」

「いいから早く!」

「小夜どうしたんだ!!」

小夜の不可解な言葉に僕も声を荒げてしまう。

落ち着け、僕。小夜の話をちゃんと聞くんだ。

「…ごめん、小夜。一体どうしたんだ?詳しく話して…」


ずる


…?何の音だ?


ずるずる


不気味な音に耳を傾けていると、ある事に気がついた。

音がする度に小夜の体が、前のめりになっていくのだ。

まるで吸い込まれるかのように、ずるり、ずるりと。


「小夜!!」

僕は彼女に駆け寄り細く白い手首を掴んだ。

「やめて!夕は逃げて!!お願いだから、ねえ!!離して!!」

「んなことできるか!!」

「もう、ダメだって!もうそこまで来て…」

「正気を保て!!一緒に逃げ…!」


突如目の前に立ちはだかる黒い物体。

どろどろとしていて、形をとどめていない。

赤く血走った目はこの世のものとは思えない。

しかしそれは、「彼女ターゲット」をしっかりと視界に収めている。

手の力がすうっと抜けていく。彼女の手を手放しそうになる。

必死に握りなおそうとするも、ぴくりとも動かない自分の手に苛立ちを覚える。

「さ、小夜…頼むから逃げよう。まだ、まだ間に会う…!」

上手く声が出せず震える声で嘆願する。

「ううん、無理だよ。それに、このままだと夕も犠牲になっちゃう。」

状況とは裏腹に小夜は冷静だった。

「僕は、小夜がいなくなったら、耐えられない。だから、諦めるなよ。」

「ありがとう。夕大好きだよ。」

「は?何言って…」


ぶちっ


にちゃ


ぐちゃ


ぐちゅ


「さ…よ…?」

黒い物体はかつて彼女だったものを、頭から、丁寧に、汚い音を立てながら頬張っていく。

全身の力が抜け、僕はその場に座り込んだ。


ずる


ずるずる


また、近づく。ゆっくりと着実に、闇は近づいてくる。

「何で…何で…僕が何したっていうんだ…?なあ、答えろよ!!」

そう言ったところで何か返答がくるわけでもなく、「それ」は僕との距離を詰めていく。

僕はポケットに入っているライターを取り出し、火を点ける。

そして黒に投げつけた。





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