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プロローグ ひとりがたり
僕はいつも、何かから逃げて生きている。この選択も、何かから逃げた結果なのだろうか。
…いや、違う。それだけは違うといえる。僕は自分で選んだのだ。彼女といきることを。
彼女を、食べる、ことを。
そして、彼女も選んだ。僕と生きることを、僕に…食べられることを。
人は笑うだろうか。愚かだと。それとも蔑むだろうか。人食という、禁忌を犯した忌むべき人間だと。
けれど結局、それは他人の感想だ。僕たちに何も関係などない。僕たちはただ、幸せになりたいだけ。幸せでありたいだけ。
満たされたいだけなのだ。
僕はこの選択を悔いたりはしないだろう。悔いる前に終わりがやってくる。終わらなくてもきっと、彼女と一つになったことに悔いなどありはしなかっただろうけど。
僕らは一つになるのだ。
二人で、一つ。文字通り骨の髄まで溶け合って。
存在ごとすべて、愛して、愛されて。たったそれだけのことだ。
たったそれだけのことが、それが如何に、僕らにとって幸福であることか!
ああ、喉が渇く。おなかがすいた。
はやく
「彼」の手記より