幻術使いの推論
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勝利の美酒に酔いしれた夜。ウィルが眠ったのを確認すると、リリーはごそごそと荷物をあさり、水晶玉を出した。リリーが手をかざすと、水晶玉にはアイリスの姿が映った。
「そちらはどうかしら? ウィルは上手くやっている?」
「アイリス様。彼はすごいですよ。今日の魔術大会でも幻術で一点突破し、あっさりと優勝してしまいました」
「そう。素晴らしいわ。その調子で知名度を上げて行けば、あの女の尻尾もつかめるはずよ」
「ええ。ですが、彼の幻術はドラゴンを翻弄し、村中の人間を一度に欺くほどに上達しています」
「今は、腕を上げることだけを考えればいいのよ。今は、ね」
「腕を上げるといいましても、決勝ではあの名高い……」
しかしリリーは肝心な部分を伝えられなかった。ウィルの声がしたためだ。
「ん? おい、リリー? 起きてるのか?」
「あ、いえ、ちょっと眠れなくて」
リリーが水晶玉に手をかざすとアイリスの姿が消えた。何事も無かったように水晶玉を鞄にもどす。
「お前でも眠れないことなんてあるのか? 図太そうなのに」
「そんな、私にだって悩みくらいあります」
「そうか。俺と一緒だな。俺も能天気で純朴そうにみえる口でな。いつだったか、女に振られた上に財布をすられて散々な目に遭った。その足で友人に泣きつきに行ったら、いつの間にか友人の女房の愚痴を聞かされて俺の方がそいつを慰めていた、なんてことがあった」
リリーは笑った。
「あり得ますね、あなたなら」
ウィルは天気の話でもするかのように口にした。
「お前、人間じゃないだろ? アイリスも」
「隠しても仕方ありませんね。あなたは案外目ざといから」
「まあ、それは今はどうでもいいことさ」
リリーは目を丸くした。ウィルはニヤリと笑い、言った。
「お前たちがそれほどまでに血眼になって探している魔術師とやらに、俺も少し興味が出てきたんだ」
「分かりました。まだ全てを話すことは出来ませんが」
リリーは意を決して話し始めた。
「彼女は、アイリス様と出会った頃はイリヤ・マイセンと名乗っていたのはご存じでしょう?」
「ああ、アイリスに聞いたからな」
「イリヤはアイリス様のお力添えの元で、ある魔術の試みをしていたのです。しかし実験は予想外の結果となりました。副産物は余りに危険なもので、アイリス様は実験を中止するお考えでした。しかし、イリヤはその成果を独り占めして忽然と姿を消してしまったのです」
リリーは嘆いた。
「あれは一魔術師の手に余る代物です。あの女を探しだして取り戻さなければ、この世界は大変なことに」
「それが本当かはさておき、何か重要なものをイリヤが持っていること、そしてとにかく急いでいるというのは本当らしいな」
「信じてくださらないのですか?」
リリーは豊満な胸を寄せ上げるように肩をすくめた。
「俺は幻術使いだぞ。俺が信じるという言葉でお前は安心するのか?」
「それはそうですが」
「とりあえずイリヤはおそらく幻術使いではないな」
「何故です?」
「決まってるだろ。こうして俺たちに追われてるからさ。魔術師が幻術使いならアイリスは今頃何も気づかずに優雅にディナーでも食ってるさ。追いかけてほしい理由があるならともかく」
「一理ありますね」
「この辺りにしておくか、いい加減眠い。お前も早く休め。明日からは本腰を入れるぞ」
そしてウィルは静かになった。もう今日は水晶玉も使えない。リリーは諦めて静かに目を閉じた。