勝負の果ては
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ちょっとウィルが覚醒してきました。素質は有るので末恐ろしいですが、極悪人にしてしまうと話が面倒になるので気を付けています。イケメンいじめ、ダメ、絶対。
試合が始まるや否や、ハンメルはドラゴンを召喚した。鋼の鱗の大きな竜が炎を吐く。
「いいぞ、ハンメル!いつものように叩き潰してしまえ!」
ヤジがとんだ。ハンメルは完全に会場の空気を味方につけていた。ウィルはヘンリーをすがるように見たが、彼はウィルに向けてガッツポーズをした。ウィルは頼みの綱の彼が役に立ちそうもないことを知った。
「良く考えればあいつの方が魔術に詳しいよな。自分で出ればいいだろうに、何で俺なんだ」
「おい、よそ見してると焼かれちまうぜ」
ハンメルはドラゴンを巧みに操り、ウィルは逃げるばかりだった。ウィルはぼやいた。
「俺だってそういう派手な術が使いたかったよ、何だってこんな地味な幻術なんか」
「何独り言言ってんだ、死にたくなければ命乞いでもして、さっさとこの場から去るんだな!」
「命乞い?」
ウィルはニヤリと笑った。
「そうか、その手があったな」
ウィルは逃げるのをやめ、ドラゴンに対峙した。真正面からドラゴンを見つめ、早口で何事か呟いた。
「新顔め、やっとやる気になったか。じゃあ俺もいかせてもらうぜ、とどめだ!」
ハンメルはそう言うとドラゴンに攻撃の合図を出した。しかし、ドラゴンは動かない。観客がざわつき始めた。
「どうした相棒? あいつを焼き付くすんだ」
慌てるハンメルをよそに、ウィルはさらに小さく何事か呟いた。するとドラゴンはくるりとハンメルを振り返った。
「おい、何をしている。早くあいつを攻撃しろよ」
ハンメルが言うや否や、ドラゴンの炎がハンメルを掠めて、彼の髪からぷすぷすと煙が立ち始めた。ハンメルの顔が一瞬にして恐怖に染まる。
「な、何でだよ。嘘だろ」
ドラゴンは攻撃の手を緩めずハンメルを追い詰めていく。ドラゴンに頼りきりだったハンメルはこの事態に凍りついていた。
「ウィル! いいぞ! やっちまえ!」
ヤジがとび、ウィルは肩をすくめた。観客とは無責任なもので、先程までの空気はどこへやら、今は意外なウィルの快進撃に熱狂していた。竜はハンメルを追い詰め、死の吐息を真正面から吹き付けようとした。
「た、助けてくれ!」
ハンメルはすがるようにウィルを見た。ウィルはため息をついた。
「それは降伏ってことでいいのか?」
ハンメルは首ブンブンと縦に振った。ウィルはドラゴンに何事かをささやいた。するとドラゴンの体はまばゆい光を放ち、虚空へと消えた。
「おっと何と言う番狂わせ!こうなるとは一体誰が予想したでしょう。 勝者はウィル・ヤンセン師!」
司会の声が響き渡り、会場は歓声に包まれた。
ヘンリーの元に戻ると、彼は明るく言った。
「いやあ、見事でしたね。もちろん、あなたなら勝てると思っていましたが! どうやったんです?」
「調子のいいこと言うなあ、さっき俺がドラゴンにやられかけてた時、お前手を叩いて喜んでただろ」
そう言いながらもウィルの表情は晴れやかだった。
「何、簡単なことさ。あいつがヒントをくれたんだ。命乞いしろ、ってな。だから俺はあいつに命乞いする代わりにドラゴンに言ってやった。『ドラゴン呼んだのは本当は俺なんです。俺を攻撃するのをやめてあいつを倒してください』ってな」
「ドラゴンにペテンを働いたんですか。まあ何とも度胸がありますね」
ヘンリーは目を丸くした。ウィルは口許を歪め、ニヤリと笑った。
「ドラゴンに話しかけているときは、本当に効くのか半信半疑だったが。幻術ってのも悪くないな」