旅立ち
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部屋に帰った男の元に、アイリスが現れた。
「練習お疲れさまでした。貴方はとても才能があると聞きましたわ。こんなに早く魔術師を幻術にかけることができるなんて、予想以上です」
「あの老人を騙したのがそんなにすごいんでしょうか。俺には良くわかりません」
「ええ、とても。ある意味では、ドラゴンの召喚やいかずちを起こすよりずっと凄いことです」
アイリスは目を輝かせた。
「そして、早速なのですが、明日にはここを立って頂きたいのです」
「明日ですか? そんな急に」
「ええ。早くしなければ。こちらの動きをあの女に気づかれてしまう前に」
明くる日、男が起きるとすでに荷造りがされていた。アイリスは荷物を男に渡すと、言った。
「これからあなたには魔術修業の旅をしている駆け出しの魔術師、として振る舞ってもらいます。名前は、そうね。ウィル・ヤンセンにしましょう。本名を知られるのは危険ですからね」
そしてアイリスは有無を言わせずに男に水晶玉を押し付けた。
「もし私に連絡を取りたいときはこれを使ってくださいな。私も少し魔術の心得がありますの。でも、これで話すのは一日一回だけです。気付かれてはいけませんから」
男は何の変哲もない水晶を不思議そうに眺めた。
「そうそう、あなたは魔術のことが良くわからないでしょうから、お伴をつけましょう。リリー、入っていらっしゃい」
「はい、アイリス様」
呼ばれて出てきたのは、年のほどは14、5才ほどの可愛らしい女の子だった。栗色の髪に緑色の瞳。緑のドレスが良く似合っている。しかし道連れとしては何とも頼りないな、と男は思った。
「こんな子供、大丈夫なんですか」
男がそういったとたん、リリーは大人の美女に変わった。
「大丈夫ですよ、ウィルさん。私はどんな姿にでもなれます。男性や、老人、そして動物にも。この力はきっとお役に立ちます」
アイリスは微笑んだ。
「これでよろしくって?」
「ええ。ですが正直もう訳がわからない。頭の痛いことばかりです」
「次第に慣れますよ。では、行ってらっしゃい」
アイリスに見送られ、ウィルとリリーは奇妙な旅を始めることになった。