老師、ふたたび
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通された先は謁見室だった。一平民が王に謁見するなどとてもあり得ないことだが、魔術師の地位はどこの国でも概して高い。しばらくすると王が入ってきた。年のころは三十程だろうか。若き王は足音もなく部屋に入ってくると玉座に座ることもせず、立ったままこう言った。
「そなたが我が『サルビリャの至宝』に加わりたいと申すものか」
「はっ。さようにございます」
「ふむ。立て。早速わしと手合わせ願いたい」
ウィルは言われた通り立ち上がった。ヘンリーは歓声を上げた。
「ウィル様、頑張って! ウィル様なら一撃です」
「倒してどうする。ヘンリー、お前がしゃべるとややこしくなるから黙っていろ」
ウィルはヘンリーに釘を刺すと国王に話しかけた。
「それは一向に構わないのですが、貴方様はどちら様にございますか?」
「何を申しておる」
「国王陛下がこのように手薄な警護で、どこの馬の骨ともつかぬ魔術師にお会いになるなど有り得ません。それに万一国王陛下ご自身を術にかければ私は反逆罪で捕えられます」
「ふむ。よろしい」
その言葉と共に、国王の髪が伸び、髭は消え、一人の女が現れた。流れる黒髪に精悍な顔立ち。女性ながら鍛えられた肉体。戦闘を主とする派閥の魔術師だろうか。
「我が名は貴様などが知る必要はない。さあ、遠慮なくかかってくるがよい」
「待てソニヤ。その必要はない」
謁見室に威厳のある声が響いた。
「しかし、それではこの者の力が分かりませぬ」
「いやわしが保証しよう」
現れたのは見覚えのある顔だった。
「あなたは、ドント・ムンク老師ではないですか!」
「いかにも。ここでは師長を仰せつかっておる」
「あなたが『サルビリャの至宝』に属しておられるとは知りませんでした」
「君も知っての通り、我々は決まった主君を持つことは珍しい。しかし、私はある目的のために今は国王陛下のもとで仕えておるのじゃ」
ウィルは尋ねた。
「『サルビリャの至宝』の長たる方がなぜあのような辺鄙な魔術大会に来られていたのですか?」
「組織には新陳代謝が必要での。我々は常に若い才能を求めておる。歓迎するぞ、ウィル・ヤンセン。あの戦いの後、おぬしを勧誘しようとしたのじゃが、わしとしたことが途中で気配が読めずに見失ってしもうた。たいした腕じゃ」
イリヤの術のせいだろうか、とウィルは思ったが敢えて口には出さなかった。
「お褒めに預かり恐縮です」
「おぬしは幻術使いじゃろう? 幻術は才能によるところが大きく、鍛錬で習得できるものではないから使い手はとても珍しい。なんせ杖なしで使える術じゃ。わしも長く生きておるが、幻術使いをこの目で見たのはおぬしで二人目になる」
「ムンク殿!」
ソニヤはこれ以上話すな、というようにムンクに首を振った。
「すまんの、年寄りというものは話がくどくていかん。国王陛下は幻術使いを求めておられる。おぬしを『サルビリャの至宝』の一員として喜んで迎えよう」
「ウィル様、これ以上ないほどうまくいきましたね」
「ああ。順調すぎて不安なくらいだ」
ウィルとリリーはひとまず胸をなで下ろした。